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さらばしちはちくがつのなきがら

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制服を着たまま裸足でプールサイドにいるのが好きで、今日もわたしは謹んで部長から戸締まりを仰せつかった。
見学者用のベンチにこてんと横になって、いとおしいにおいを嗅ぐ。
水を清潔にするための毒のにおい。
乾いていくコンクリートのにおい。
乾いていくわたしの髪のにおい。
みんなが嫌いと言うものを好きでいるのは学校世界では恐ろしいことだ。
だからわたしはひとりのプールサイドでそれらを愛する。
それは多分、大人世界に似ている。

「すみれちゃん」
「……きょうちゃん、」
「なにしよんの」
「いや、うん」
「あたしもまぜて」
「え、」

にこうえの可愛い先輩は、可愛いくせに素行がいなせと評判で、
それを今まさにわたしの目の前に証明せんとしている。

「……きょうちゃん、ぱんつまる見え」
「いいもん」

あっちっちーと拍子をとってうたうように、フェンスをよじ登る白い手足。
プールサイドに降り立ったまばゆい彼女と、まばゆい日差しがからんと笑った。

「暑くない?」
「んん、なんか、好きでさ」
「えー、塩素?」
「塩素」
「わからいでもないな。あ、そうだ」
「ん?」
「すみれちゃん、塩飴あげる。塩素で思い出した」
「塩飴、」
「塩飴。食べれる? 嫌い?」
「いや、気になってたんだけどまだ手出してない」
「したら食べて、びっくりするでこれ」
「え、なんで?」
「めっちゃおいしない」
「ははー。じゃあいただく」
「塩分補給ーとか言って買ってんけどな、」

青いパッケージをやぶいて、半透明の飴玉をながめる。
思い切って口にふくむと、なんとも形容しがたい気持ちになった。

「…………」
「ないやろ」
「……コメントしづれえ」
「ははは!」
「いいねこれ、なかなか無いよこの感じ」
「そう! めっちゃ微妙」

ふたりで微妙な飴をなめながら、しばらく足をプールにつけて遊んだ。
これからバンドの練習にいくという彼女に、残りの飴をおしいただく。
明日よしくんとかにあげてーと言い残して、彼女は手をふった。

口のなかにとけのこるしょっぱさと、嗅ぎ慣れた消毒液のにおい。
みんなが嫌いと言うものを。
好きでいること。
わからいでもないと彼女は言った。
においの無い味と味の無いにおいが、ひとつに繋がった気がして、世界がそんなに孤独ではないような気がして、わたしは目からしょっぱい水を少し出した。
そして、塩分補給ーと飴玉をもうひとつ口にふくんで、少し後悔した。