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未来脳

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 未来型ソーシャルネットワークサービス「LinKs」が人類すべてを虜にした。
 今日も俺は颯爽と目覚め、自分の脳接続端子にネットワークケーブルを接続させる。 そう、俺の脳はこれでもう世界のネットワークとつながった。 「LinKs」は俺に夢を見させてくれる。俺だけじゃない、誰にでも夢を見させてくれるすごいテクノロジーなのだ。 まず、今日はどんな女と遊ぼうかと考える。
「そーだなあぁ……今日は、天然っぽい子がいいかな。」
 それを考えた瞬間、俺の脳内から電気信号がネットワークに送り込まれ、検索サーバーから候補が1万人ほどに絞り込まれる。
「ん〜〜スタイルは良いほうがいいな。ガリガリよりはぽっちゃりかな。」
 と、適当な好みをインプットすればさらに三分の一に絞り込まれる。 あとは、まあ適当に選べばいいのだ。
「ん〜あとはランダムで選んでくれればいいや」
 と考えるとランダムで今日の彼女が選ばれる。
 なんともスーパーでサイケデリックなシステムなのだ。古き良き二十世紀の巨匠ビル・ゲイツも目から鱗が落ちるというやつさ。そうやってランダムに選ばれた彼女とラブラブする。

もちろん脳内である。

 しかも俺の分身となる「アバター」はイケメン風にあらかじめアレンジしてある。相手ももちろん超美人の「アバター」なのだ。そんな俺たち、アバター同士でイチャイチャしてみる。虚しい営みかと思われるかもしれない。しかし、視覚・聴覚・触覚などはリアルに脳に響いてくる。なんともエレガント!
脳は情報処理速度が速い。リアルの一時間で脳内では数年分の濃密な関係が形成される。出会い、浮気、ケンカ、別れ……楽しいことや悲しいこと、喜怒哀楽さまざまな感情を経験する。ある時は、
「ああ…嬉しいなぁ、今日はなんて幸せな一日なんだろう……ウハハ…アハハ…。」
 そしてまたある時は
「なんでだ…なんで俺はフラれたんだ!!畜生!!死んでやる!」
そして脳内で自殺を五万回ほど繰り返して自分を慰める。
そんなこんなでさまざまな経験を繰り返した俺。これで俺は恋愛マスター。スーパーな人間へとクラスアップしているはずだ!!などと、日々素晴らしく充実した生を謳歌していた。
 しかし……ちょっと心配なことがある。寝るときと食事以外はすべて脳内で経験している俺たち…
 たまに政治のことを話しに聞く。
どうもこの社会はうまく行ってないらしい。
――戦争が起こるらしい。――
 ――数日後、俺にも戦争の赤紙が来た。もちろん脳内で。 そんでもって脳内で戦地へ行き、脳内で白熱バトルを繰り広げた。 脳内で殺し合い、死に、生き返る。脳内で戦争が終結した。誰も死なない戦場の、誰もリアルを感じることのない終戦。
そしてまた平和な日々に戻るのであった。
 戦争でも誰も傷つかない、それに毎日充実している。もちろん脳内で。
 もはや脳内だろうが現実だろうがそれに境は無いのだ。脳で起こることすべてが現実なのだ。

それに現実へ戻ってみればいい。
そこには不自由しかないのではないか。

醜い顔の自分、納得いかない相手、ケンカ……リアルのケンカはお互いに傷ついていく。 それにリアルじゃ誰も恋愛なんて求めない。いまや脳内恋愛の時代なのだ。
 脳。脳。脳。もうこの世には脳以外なんにもいらない。

みんなそう思った。

ある日、脳内会議が全人類でおこなわれた。そこで提案されたのは、「脳を結合した新生命体」への進化についてだ。つまり、全人類の脳をリンクさせ、個々人の意思を総合させ、巨大な脳をもった一個の生命体へとなるというものだ。
 まさに人類は新たな段階へと進化する時がきたのだ。

リアルでは数日間、脳内時間では数万年にも及ぶ議論がなされた結果、多数決でこの提案は可決された。そして脳はひとつになった。人間は人間でなくなり、他人と自分の境もなくなった。誰一人傷つくことはなく、さらに平和で平穏な未来になった。

数十億年後。
太陽が死を迎え、人類はこのままでは一緒に爆発してしまうことになった。そこで、人類は、大きな宇宙船を建造し、超巨大脳ネットワークをその中へ移設した。
 そして宇宙へと旅立った。
いまや人類は根無し草の放浪の日々、暗黒の世界における孤独を送ることになった。
しかし、人類はみんなつながっている。誰一人心細く思うことはない………。
皆はそう感じた。

 平和な未来がここにはあった。

作品名:未来脳 作家名:charlie