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君が世界

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 よくわからないが、いらないらしい。渡したのはもらった小石の魔力よりもっと少ない程度だし、森では挨拶代わりに行っていたのでそこまで拒否されるとは思わなかった。人間には好まれないのかもしれない。気をつけようと思う。
 そんなことを考えているうちにイゼルは自分自身の食事をさっさとすませ、木を背にして休む体勢になった。
 サヤカは腰掛けたイゼルの近くまで寄って、まず上着の裾をひっぱってめくった。何か文句を言われた気がするが無視して傷口を確認する。もうほとんど塞がっているが、今日はずいぶん動いていたので開いていないか不安だったのだ。幸いにして開いた様子はなかったので、ぺろりとひと舐めして元に戻した。
 ちらとイゼルを見ると何か困ったような顔をしている。なんだろう。
 よくわからないが、怪我は心配なのだ。巻いた籠手に鼻を押し当てると、サリューが降りてきて器用に外してくれた。イゼルは驚いていたようだが、まあそれはいい。はじめに見たときには紫に腫れ上がっていた腕は、何度も膿んで腫れ上がり、そのたびにサヤカが噛んで膿を出してやっていた。おかげでイゼルの腕にはサヤカの噛み痕がいくつか白く残ってしまっている。まだ少し紫の痣が全体に残っているし、腫れているようにも見える。
 具足を外した足の方は、もう痣すら薄れて噛み痕を残すばかりになっているだけに、腕の様子が少し心配だった。
 腕を舐めながら難しい顔になっていたのか、イゼルがそっと耳の辺りからたてがみをすいた。
「サヤのおかげでもう痛くない」
(でも、痣が残ってる)
 伝わらないなりに、納得していないことはわかるらしい。なだめるようにゆるく撫でられる。怪我は一通り確認したので、サヤカはイゼルの枕になるべく横になった。しかしイゼルが体を預けてこないので、鼻面でぐいと胸を押す。苦笑して少しだけ体を寄せてきたがまだ寝るつもりはないらしい。
「呪毒を受けたんだ。たとえ生き残っても、もう使い物にならないと覚悟していた」
 じゅどく、という言葉は耳慣れなかったが何かよくないものらしいことだけはわかった。
 イゼルは痣の残る腕でサヤカのたてがみにふれ、指をからめる。
「こんなふうに元通り動くようになるとは思わなかった」
 サヤカの首元のやわらかな毛に、潜るようにイゼルは頭を押しつけた。
(どうしたの?)
 悲しいことでも思い出したのかと、頬を寄せる。
「……俺は戦える限りは、戦うしかない」
(なら、私が戦うあなたを守るよ)
 よくわからないがイゼルも思うところがあるのだろう。大丈夫、とただそれだけでも伝わればいいのにと思う。
 その晩は、森で過ごしたようにイゼルを懐に抱いて眠った。


 登山は思ったより大変だった。
 むきだしの岩山にところどころ樹木が生えているような、まさしく道なき道で、歩くというよりよじ登るという方が正しいくらいだ。
 さすがにイゼルを乗せたまま登ることは難しく、彼を歩かせることになってしまった。サヤカ自身は、元々この体は山を登ることを苦にはしないようで、軽々と跳ねて登ることができた。
 少し先へ行ってはイゼルが登ってくるのを待ち、また少し先へ登っては待つ。
 イゼルの体力に合わせて、無理をしない程度に日々進んだ。「まだ行ける」というイゼルの襟首を捕まえて休ませることも何度かあり、そのうちに「サヤは過保護だな」とイゼルに笑われるようになった。
(過保護にもなるよ、こんな小さい上に、怪我までしてるんだもの)
 うりうりと胸に額をこすりつけると、イゼルは楽しそうに笑った。
 三日もすると、山道は少しましになり、イゼルを背に乗せても進めるようになった。
 山道では動物の姿も見かけるようになった。といってもあの森にいたような動物ではなく、サヤカの目には見慣れない生き物だ。どうやら食べられるものも中にはいるらしく、イゼルは野宿の晩に一羽捕まえてきた。
 兎のような鼠のような生き物だ。イゼルに首を捕まれてだらりとぶら下がっていた。
 かすかな血の匂いと共に、魔力の気配がするので誘われた。ふっと首を向ける。
「サヤ?」
 今まで彼の食事に興味を持ったことがなかったためか、訝る声音でイゼルが問いかける。サヤカは絶命し脱力した生き物の背をつんと鼻面でつついた。押し出されるようにして魔力が立ち上るのを、吸い込んだ。
 そのまま首を上げてイゼルの額に触れ、魔力を分け与える。
 森でも狼が取ってきた獲物の、魔力だけをもらうことがよくあった。その魔力はなるべく獲物を捕ってきたもの自身に分けるようにしていたので、習慣でサヤカはイゼルにも同じように与えた。
 我も我もと手を伸ばすので、サリューにも分け与える。
 この魔力だけはどうやら、森でも外でも変わらぬ濃度があるようだ。なるほど、と思いながらも、サヤカ自身は狩りをする気がまったくわかなかった。
 ふとイゼルを見ると呆然としている。そういえば魔力を与えられるのは好きじゃないのだったか。思い出して申し訳なく思ったが、気分を害したわけではなさそうだ。
「……終の魔力とは聞いたことがあったが……魔獣はいろいろ予想外だな」
 イゼルのつぶやきは、サヤカにはよくわからなかった。わからないことだらけだ。だが、イゼルにはわかっているんだろうし、まあいいや、と思った。


作品名:君が世界 作家名:なこ