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世界はまわる

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「なにもかわらないねえ。」
 本当に期待していたのかもよく分からない声音で、少女が呟く。そんなの当然だろうと五月は思った。31日が、1日に変わる。その瞬間に世界が滅びれば、少女は満足なのか。面倒だと思いながら、そんなことを思考する自分が一番厄介だ。煙草を吸うと、少女は嫌がる。ならば煙草や酒は愚か、雑菌の類さえ嫌うお綺麗なママの下へさっさと帰れと思う。それも口に出さずに、代わりに吐き出した息は白く冷たかった。
 彼女は初日の出を見るのだそうだ。ばかばかしい。五月は怨嗟を吐き出す。その間彼女が飲み下した感情は知れない。ただじっと、よどんだ青と、橙色の潜む水平線の向こうを見つめている。
 「どこに行けるのかなあ。」
 少女は言った。
(どこにも行けやしねえよ)
 五月は袂にその言葉を押し込める。絶望も、希望も、未来も、現実もなにも知らない少女にそんなことを言ったところで、なにが分かるというのだ。五月はその全てを少女よりも遥かに知り得ている。深く沈みすぎて、だから、絶望もしないし期待もしない。朝は訪れ、沈み、暗闇に包まれて、やがて光が差す。その繰り返しだ。なんていう世界だろう。残酷だ。それが現実だと、五月は知っている。それが生きてゆくということだろう。うつくしい未来なんてなくていいのだ。必要ない。しらない。いらない。突然、美しい朝日が五月を照らし、浄化し、希望に満ちた世界に導いてくれるというならば。
「五月さんは、初日の出になにをお願いするの?」
お前だけは、知らなければ良いよ。こんな世界のこと。知りえてなお笑っていれば良い。五月さんは絶望的観測が強すぎるよ。最近覚えた言葉を使って、そう言えりゃあいい。美しい世界など要らない。希望も光もある世界なんて、そんなものを五月は望んでいない。
 太陽がゆらりと姿を現す。それを見つめて、少女は笑った。きれいね。
 いつものように昇った。世界を照らす。
 繰り返しの一日を、五月と少女は生きる。少女は冷たく真っ赤になった手を、五月の手に絡ませる。屈託なく笑う。そんなものにさえ救われる自分がいる。
「五月さんの手はあったかいねえ」
手をつなぎ歩き出す。少女の手は冷たかった。五月がゆるく握り返してやると、少女は笑った。もって行けばいい。このつまらない肉体の体温などすべてお前が、持ってゆけばいい。それで、さみしさに凍え死なぬというならば。
「かえってお餅食べよう」
わらえ。
五月は願う。
作品名:世界はまわる 作家名:サトー