裏ふぁーすとでーと?
9
「――まあ、とゆーわけで夏男さんにご協力頂いているわけなんです」
夏男=黒崎と言う事実を除いて、大宮が簡潔に説明してみせると二人は呆れたような困惑したような微妙な表情を見せた。
「……なるほどなー。女装した姿に惚れられたのか」
相手に同情するような口調でしみじみと早坂が頷く。
「まあ、確かに断る口実としては妥当……か?」
由井も完全ではないが納得したらしい。
まあ、誤解は解けたな。
本番前に死ぬ程疲れたけど……
ダルそうにジュースを啜っている黒崎に、確認する。
「オイ。あんな感じで演じるってことでいいか?」
「あー。いいんじゃないか?」
気のない返事に少しイラついて、黒崎をにらむとダルそうなまま、
「もうなんか桜田葵さんの彼女になればいいんじゃないか?」
「はあ!?」
とんでもねーことをいいだした。
「安心しろよ。
オマエなら誰よりもウエディングドレスを着こなせるさ」
ポンとと肩を叩きながら、無駄に爽やかな笑みを浮かべる。
「ふざけんな!
ウエディングドレスが似合うのは保障されなくてもわかってんだよ!」
「……それは否定しないのか……?」
早坂に突っ込まれるが聞き流す。
「だってさー。
もう本番やる前に気力使い切ったしさー」
テーブルにべったりと顔をくっつけ、やる気のなさそうな声で答える。
……まあ、確かに……
「――! そ、そんな……このままだと桜田さんがお星様に!!」
はらはらと流れ出る涙を白いハンカチで拭いながら、大宮が嘆く。
……口元笑ってんのが見えてんぞテメェ。
「なんかもう早坂か由井が彼氏役変わってくんねえ?」
「――! おい黒、夏男!!」
なんでそうなるんだ!!
いくら俺だってマジに男の彼女役なんてイヤだっつーの!
「え? お二人がやってくれるんですか?」
「――ちょ、俺は無理だぞ!」
慌てて首を振る早坂。
「――そうだな。俺も無理だ」
キッパリと由井も断り、大宮が、「ああ、やっぱり桜田さんは純白のドレスをきたお星様に……」とか呟いているところをどついて黙らせる。
「――というよりだな。
『彼氏』では断る口実としては弱いんじゃないか?」
「「「「――は?」」」」
由井の意表をついた台詞に俺たちの声がハモる(ちなみに大宮も復活している。チッ)。
俺らの視線を浴びながら、ゆっくりと由井が口を開く。
「――だからな。
完全に断る理由なら『彼女』のほうが適してるんじゃないか?」
「「「「――はあああああ!?」」」」
――『彼女』だと!?
作品名:裏ふぁーすとでーと? 作家名:如月花菜