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僕は美夜子ちゃんが嫌いです。

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僕は美夜子ちゃんが嫌いです。

美夜子ちゃんは僕のお母さんです。僕が五歳になった頃にはもう美夜子ちゃんのことを美夜子ちゃんと呼んでいました。なんで?ってお父さんの浦葉さんに聞くと、浦葉さんが美夜子ちゃんのことを美夜子ちゃん美夜子ちゃんって呼ぶから僕もいつの間にか美夜子ちゃんって呼ぶようになったんだって言ってた。

僕が美夜子ちゃんが嫌いな理由?

「おら、起きろ!龍太郎!」

馬鹿で乱暴でガサツだから。

だって普通のお母さんは子どもを起こすときになんのステップも無くいきなり敷布団を引っぺがさないもん。美夜子ちゃんは畳にたたきつけられた僕の方なんかちっとも見ないでお布団を片付け始めた。ガサツな美夜子ちゃんは昨日遅くまでやってたゲームのカセットを踏んづけて間抜けな声をあげてた。へへ、ざまぁみろ。
「いったいなぁ、頭ぶったじゃん。美夜子ちゃんの馬鹿。」
 口をへの字にしてたんこぶを擦って見せても全然気にしない。むしろ見てくれない。と言うかもう、すでに部屋を出掛かってる。
「うるさい、とっと起きろ。小百合が迎えに来んぞ。それからゲームとっと片付けろ。」
どうでもいいけど、どうして美夜子ちゃんは人のゲームを踏んづけといてそのゲームを片付けようとはしていってくれないんだろうか?

美夜子ちゃんが買ってきてくれた紫のパジャマは、はっきり言って趣味が悪い。いや、趣味も悪い。とりあえず起きろって言われたから面倒臭いけどパジャマを脱いで、この間美夜子ちゃんがバーゲンで買ってきた龍のプリントのロンTを着た。美夜子ちゃんはいたって真面目にこの服を小学生に手渡すのだから、こっちとしては本当にやめてほしい。美夜子ちゃんって大していいところが無い。料理はすごくおいしい。でもガサツだから時々失敗する。掃除もすごく上手にする。でも乱暴だから時々掃除する前より汚くなる。センスに関してはジャンルがあまりにも偏っているから、人によっては引く。空っぽのランドセルを片手で持ってズルズルと階段を下りたら洗濯物を抱えた美夜子ちゃんに睨まれた。
「ちゃっちゃと飯食え。姉貴ん家は仁のせいで朝早いんだから小百合にどやされんぞ。」
口は悪い。色気も無い。胸もない。浦葉さんにそう言ったら、本人が気にしてるからあんまり言うなって言われた。でも僕にはそうは見えない。

「うるさいな。美夜子ちゃんは一々うるさいんだよ。」
折角、色素が薄くて綺麗な茶色い髪の毛を僕の工作のハサミを使って自分でショートに切っちゃうし、その上その髪を長くてグニャグニャしたヘアピンを使って全部後ろに上げちゃうし。いくらなんでもそれはありえないって言ったら、“邪魔、面倒臭い”の二言で済ませちゃうような人が色気とか胸とか気にしてると思う?
「んだと?いくら言っても夜更かしするから朝起きれねぇお前を起こしてんだろうが。」
「美夜子ちゃんより小百合ちゃんの方がうるさくないもん。」
後ろでまだごちゃごちゃ言ってるのなんか全部無視して食堂に滑り込む。そしたら、コーヒーの臭いとすごくおいしそうな臭いがした。よかった、今日は失敗しなかったんだ。安心してテーブルに着くと、僕の前の席にいる浦葉さんを朝野が挨拶。新聞を広げて、青いシャツを着こなしている浦葉さんは今日も格好良いお父さん。
「浦葉さんおはよう。」
「ああ、おはよう。龍太郎。」
美夜子ちゃんに比べたら浦葉さんは凄くいいお父さん。何やらせても上手いし、僕が困ってたり考えたりしてるとすぐに気がついて色々教えてくれるし、美夜子ちゃんにはきっと一生かかっても出来ない事がたくさんできるんだもん。思い出したらムカムカして今日は成功している美夜子ちゃんの渾身の卵焼きを箸でぐちゃぐちゃと崩した。
「どうしたの?なんか怒ってる?」
ほらね、浦葉さんはこんな風にすぐ気づいてくれるんだ。読んでた新聞を畳んで、形の綺麗な手で僕の頭を撫でてくれる。美夜子ちゃんなら気づかずにスルーされるだけだし。
「んー、別になんでもないよ。美夜子ちゃんが朝からうるさかっただけ。あ、そっちのジャム取って。」
「はいはい、でも美夜子ちゃんは龍太郎が起きてこないから心配して起こしに行ったんだよ?」
 まぁ、浦葉さんの弱点というか唯一間違っちゃったところは、幼馴染だった美夜子ちゃんを溺愛してることくらいだよ。ジャムに入ってたスプーンで狐色のトーストにビチャっと真っ赤な苺のジャムを塗る。あ、ロンTに跳ねた。・・・ま、いっか。洗うの美夜子ちゃんだし。僕が気にしないで放っておいたらテーブルの向こう側で浦葉さんは一度渋い顔をして無言で僕の袖をおしぼりで拭いてくれた。本当に浦葉さんは美夜子ちゃんに甘いんだから。
「えー。でもまた布団引っぺがされたぁ。」
「そりゃ何度起こしても起きなきゃ強硬手段に走るでしょ。美夜子ちゃんだもん。」
起こされてないって。初っ端一発目から引っぺがしにかかったって。美夜子ちゃんLOVEの浦葉さんにいくら美夜子ちゃんの愚痴言ったって聞いてくれないのはわかってたけどさ。完全に美夜子ちゃん擁護に回ってしまった面倒くさい浦葉さんをどうしようかなぁなんて考えていたらうちのチャイムが鳴った。
「りゅうーたろー!さっさと学校行くわよぉー!」
「ほら!小百合来たぞ!」
耳に刺さる美夜子ちゃんと小百合ちゃんの声に顔をしかめながら、トーストを口に放り込んだ。このさいおかずなんか無視無視。かまってられないよ。
「今行くー!!」
 もぐもぐ口を動かして牛乳で一気に流し込む。浦葉さんはお行儀が悪いって渋い顔するけど、絶対美夜子ちゃんよりは行儀いいもん。椅子を蹴るみたいにランドセルを背負って飛び出した。
「あ、こら龍太郎。おかずは?」
「時間無いからいらなぁい。」
「だから、さっさと起きろっつたのに!今日は絶対九時には寝ろよ!」
怒り始めると止まらなくなる美夜子ちゃんの脇をすり抜けてかかとの潰れたスニーカーに足を突っ込んだ。
「いやだもんね!僕に命令しないでよ!高校中退したくせに!」
ベーッと舌を出して捕まる前にちゃっちゃと逃げる。
「龍太郎!!待ちなさいよ!」
小百合ちゃんの叫び声がまた耳に刺さった。

なんで女の人の声ってあんなに耳に刺さるんだろう?


「星彦ぉ、おはよぉ。」
「おお、おはよう。龍太郎はいっつも眠たそうだな。」
幼馴染の星彦は相変わらず女の子みたいに腰まである髪の毛を揺らしながら、どことなく可憐に駆け寄ってくる。これで本当に僕より年上の男の子なんだから、きっと世界七不思議に入れると思う。
「待ちなさいよ!龍太郎!!」
「小百合ちゃん、うるさい。」
ゼイハァ言いながら追いかけてきた小百合ちゃんはまだ叫んでる。こんなに朝から怒鳴られたんじゃ耳が痛いよ。息を切らしながら、でも絶対に文句を言うのをやめない小百合ちゃんに、僕はもう絶対に女と人となんか結婚しないって密かに心に誓った。毎日こんな風に怒鳴られるなんて溜まったもんじゃないよ。これならまだ星彦と結婚した方がマシだもの。
「もう、美夜子ちゃんも小百合ちゃんも叫んでばっかでうるさい。」
「龍太郎。また美夜子と喧嘩したのか?」