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大きな猫4

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「みっちゃん、昼飯どないする? 」

 幹部室の扉を開いて、嘉藤が声をかけてきた。だいたいが、勝手に一人で外食するのだが、正午を過ぎても出て来ないから、心配されたらしい。

「・・・・すまん・・・俺、メシより睡眠やねん・・・・・」

「わかった。」

 来客用の豪華なソファに、ぐったりと伸びているので、嘉藤も納得したらしい。そのまんま、出て行った。週の早いうちに、こんなに体力を使うのは、まずかった、と、反省した。朝も起きられなくて、ぐだぐだで、旦那が無理矢理に着替えさせて叩き起こしてくれたから、どうにか出勤できた。

・・・・なんやったっけなあー・・・なんか、忘れてるんよ、俺・・・・・・・・

 昨日、何かあったのだが、その後、ストレス発散して、ついでに、その何かまで、見事に忘れてしまった。どっかで、頭の片隅にひっかかっているのだが、それが、出てこない。三十過ぎると、どうも、脳みその性能も悪くなる。ぐたぐだと考えつつ、半分寝ていたら、なんだか、ドアの向こうが騒がしい。

 ドアの向こうには、責任者の東川がいるはずだが、どうも、騒ぎが収まらない。東川も、元は、いろいろとあったおっさんだから、堅気には見えない風貌だ。それに、騒ぎをふっかけられるとしたら、ほんまもんのやーさんぐらいだろう。五分しても、騒ぎは、そのままだ。こら、東川のおっさん連中は、外食に出たな、と、のろのろと起き上がった。それ以外は、堅気の従業員たちだから、騒ぎの対処なんてできないだろう。

・・・・・しゃーないなー、誰や・・・・・・

 誰も幹部連中がいないのなら、仕方がない、と、起き上がろうとしたら、扉のほうが先に開いた。

「なんじゃ、また飾りしかおらへんのか。」

 先日も、散々に文句を吐きに来た暇なクソ爺だった。市内にある店舗の店長なのだが、給料が低いだの、経費が足りないだのと、文句を吐きに来た。店長の給料というのは、規模にも拠るが、ほぼ一律だ。経費も従業員と規模によっているから、これも一律と言える。このクソ爺は、そんな規定すら無視して、とんでもないことを言うのだ。

「ここに来るのに、靴が減った。それと交通費。これは、おまえらが払え。」

 もう、いきなり、これだ。せこいことばかり言う。先日は、従業員との懇親会の費用がないから出せ、と、言うものだった。それだって、ちゃんと、渡しているので、間に合うようにすればいいのだが、このおっさん、経費で、自分の服だのゴルフ道具だのを買って、一か月分の経費を消費していた。もちろん、それは注意して、給料から天引きという処置にしたのだが、それも納得できなかったらしい。

 仕事に来るために着てくる服。仕事の付き合いで使うゴルフ道具。これらは、仕事に関係するのだから、会社で持て、と怒鳴りこんできた。

 有り得ない、と、俺は、それを跳ねつけた。組合のゴルフの費用なんかだったら、もちろん経費で認めているが、個人的なものは、認められない、と、説明もしたが、聞く耳がない。全然、関係のない脅し文句とか罵詈雑言を、俺に吐き掛けて帰りやがったのだが、まだ、あるらしい。

「こっちは、汗水垂らして、せっせと働いてるっちゅーのに、ソファで昼寝とは、ええ御身分や。そんな暇があるんやったら、働け。この淫売。・・・・・専務に媚売って、ここで昼寝してるだけのくせに、えらそうなんじゃっっ。」

 休み時間に昼寝してて、ドヤされるのは、どうなんよ? と、思いつつ、起き上がった。せっかく、ストレス発散させたのに、また、ストレス溜まる。

「今日は、何の御用ですか? 先日のことでしたら、あれで、決定ですから翻りません。服とかゴルフ用品を買うのは、個人の買い物で、それは、認められへんし、従業員との飲み会も、経費で足りん分は、ポケットマネーでも使うとかして、埋めてください。他の地域の店長は、それでやってるのに、あなただけができないというのは、おかしないですか? 」

「じゃかましいっっ。おまえのその命令口調がムカつくんじゃっっ。・・・・・わしは、元々一流商社の部長まで行った男や。おまえみたいな若造に、難癖つけられることなんかあらへんぞっっ。おまえでは、話にならん。もっと、上の専務でも呼べ。」

 どうして、こういうヤツは、自分が勤めていた元の職場の地位を、とやかく自慢するんだろーな、と、思う。まず、退職して、どこも拾ってくれなかった時点で、それだけの人間だったと、気付け、と、俺は言いたい。優秀なら、早期退職も勧められないし、自主的に退職しても、どこかの下請けや子会社、関連会社から、再就職の誘いなんてものがある。この業界は、給料はいいので、それに釣られてきたのであろう。それで、これだから、相当可哀想なおっさんではある。元の職場が、どんなもんであろうと、元の仕事がどういう遣り方であろうと、それは、こちらとは、まったく違うのだ。この業界に、新人として入って来たおっさんは、ここの遣り方を覚えることが先決だ。

「専務は、本部におりますんで、こちらにはおりません。・・・・・・それから、専務に逢いたいということでしたら、スケジュールを確認して、こちらへ出向く日を連絡させてもらいますんで、それでよろしいですか? 」

「今すぐ呼ばんかっっ。わしが呼んでるんじゃっっ、それぐらいの都合はつけさせろ。」

・・・・・いや、おっさん、自殺志願者か? 堀内のおっさんに、そんなこと言うたら、シバキたおされるぞ?・・・・・

 というか、誰や? こんなアホの痛いおっさんを採用したヤツは・・・・と、俺は呆れつつ、「専務は、お忙しいので、できません。」 と、一応、頭を下げた。怒鳴って、クビにする権利が、実は、俺にもある。関西統括責任者というのは、関西の人事権も持っているのだ。ただ、このおっさん、売上には手をつけていないし、借金もないから、そういう意味では、仕事は真面目だ。だから、クビすることもあらへんやろうと思っていた。

「電話しろっっ、わしが直接、話す。おまえ、愛人やねんから、携帯の番号ぐらい知ってるやろうが。」

「できません。」

「何様じゃっっ、おまえっっ。」

 もう、いい加減、我慢すんのも、飽きたなあーと思っていた。殴りたかったら、一発は、殴らせて、とりあえず、「愛人の顔を傷物にした。」 と、脅しでもかけようか、と、のんびり構えていたら、ドアは開いた。

「専務の愛人で、あんたの上司や。」

 うわぁーまた、えげつないのが、来たなーと、俺は呆れて俯いた。沢野が、ひょっこりと顔を出したからだ。

「誰や、おまえ。」

「うわあー、失礼なこと言うヤツやなあー、わし、これでも、あんたの上司やのに。だいたいなー、公金横領しといて、まだ、この子にまで、文句を言うて、なんぼほど、アホなんや? この子、専務の愛人やて知ってて、よう、そんな怖ろしいこと言うわ。」

・・・・・煽ってるしな・・・・このクソ親父・・・・・・

 専務が一番お熱上げてるのに、この子にチクられたら、即刻クビやのに・・・・・と、さらに、なんていうか、その嘘臭い台詞は、やめんかい、と、内心で、沢野にツッコミつつ、睨んだ。
作品名:大きな猫4 作家名:篠義