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VARIANTAS外伝・Impression

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夜の空の下、冷めた空気で肺を満たし、深く長く息を吐く。
 私はそうしながら、膝を点いて降着する自分の機体の足元で目を閉じた。
 巨大な塹壕の中、私たちがいるのは連隊本部から150Km離れた荒野。
 周囲から聞こえてくる音。自分と兵士達の息遣い。砲声、銃声、うめき声。それら全てが和音となって聞こえてくる。
 目を開いて辺りを見回す。後方には同じよう降着して待機する僚機、T-72の現地改修機体3機。そして周囲には、擦り切れた布きれのように地面に座り込む兵士達の姿。みな目は虚ろで、疲弊しきっていた。
 同じような様子を、私は生まれた時から見てきた。
 私の母は、私を砲爆撃の下で産んだ。セルビア人だった母は敵に犯されて出来た私を、あろうことか産み、大切に育ててくれた。たとえ同胞達に罵られ、排斥され、疎外され、一人になったとしても。
 私はものごころが着く前から戦った。ひたすら戦い、同胞さえも撃ちながら、今まで生き、気付けば、“トロイ”と呼ばれる、部隊の長となっていた。
 トロイは、12軍団旗下に設立された、“傭兵達で構成される正規部隊”だ。
 そう、傭兵。自分も含め、みな金で動くハイエナ達。荒くれ者の無法者。ドブ川の浮草。
 そんな部隊の中、女である故の侮蔑と危険はお釣りが出るほど受けてきた。
 その全てを、力で捩じ伏せてきた。実力と実権第一主義である傭兵達。それを束ね、指揮し、君臨する自分。力が全てのこの世界において、敵を殺す事こそがその世界の本懐であり、生きる術。殺すが殺されるか。気を抜けば殺され、生きて捕まれば犯される。
 その全てを、力で捩じ伏せ、打ち砕いてきたトロイこそが、私の誇りの全て。力の具現化だ。
「……こちらロードランナー、トロイ01聞こえるか?」
 先程、50Km前方に送り込んだ偵察部隊からの無線通信が、インカムを通じて聞こえてきた。
「こちらトロイ01」
「……先程からB47〜C222戦域で守備部隊が敵機甲中隊と交戦。予備戦力も無し。突破は時間の問題だ」
「トロイ01了解……」
 絶望的な報告だった。
 今、目前に北部同盟軍の機甲部隊が迫っている。撤退しようにも、ピックアップ地点は連隊本部より更に後方、ここから200Km。
 救援は20分で到着すると言われたが、それまで持つかどうか。
 だが、諦めるのはまだ早い。私たちはまだ生きている。
 私は生きたい。犯されたくない。
 そんな人として当たり前の欲求の為に私は力を振るう。
 歩兵達も、こんなところで死にたくはないだろう。
 私達は、彼らの最後の希望だ。
「トロイ遊撃隊第一小隊、交戦用意!」
 私はインカムに向かって声を張り上げた。
 同時に、三人の血に飢えた戦士からの返事が帰ってくる。トロイ遊撃隊の急先鋒、第一小隊。
 私は自分の機体、HMA-h1Dに乗り込み、機体を起動させる。
「三人とも聞こえていたな。間もなく敵部隊がここにくる。我々はそれに先じて叩く。二号機は私と来い。三号機と四号機は残って、歩兵達の壁になってやれ」
 私はそう言うと、持てる限りのランサーと弾薬を持ち、二号機を連れて塹壕を出た。
 一瞬、二号機の肩に殴り描かれたトロイの標語が目に入る。
 “Eli, Eli, Lema Sabachthani”
 神など糞くらえだ。私達は自分達の力で生き抜いて見せる。
 私は生きる。
 ドブ川にも花は咲く。浮草にも夢はある。



1.
「来たぞ」
 塹壕から6Km、戦線側面。ハルダウンした私の機体の側で息を潜める二号機が、強力なセンサーによって敵機を捕捉した。
 二号機は機体頭部後方のドーサルスパンに大量の電子偵察機器を詰め込んでいて、目が良い。しかも、パイロットのオドポールは射撃の名手だ。
 オドポールは、私がトロイに入ってからずっと二番機を任せている男だ。無愛想で寡黙な男だが、いざという時は頼りになる。実際、今回の作戦もオドポールの発案だ。
 作戦はこうだ。
 三号機と四号機が、塹壕から敵正面へ遅滞攻撃をかけ、その間に私と二号機が敵側面へ攻撃を加える。塹壕からの遅滞攻撃に加え、側面からの打撃。ポイントは、側面攻撃の発起地点を悟られないようにすることだ。
「オドポール、ランサーの準備はいいな?」
「ああ。発射筒10本、設置済みだ」
 私はランサーのトリガーを自機FCSへオーバーライド。
 次の瞬間、敵部隊の後方火力支援機の発射した300mmロケット弾が闇を切り裂き、空中で割れて子弾を放出。ばら撒かれた対人対装甲子弾が、塹壕内の歩兵数十人を吹き飛ばす。
「始めろ!! ファイヤファイヤファイヤ!!」
 子弾の雨の中、塹壕内の三号機と四号機の120mm50口径長重機関砲が火を噴いた。
 重機関砲の弾道は驚くほどフラットで、重い120mm砲弾は8Km先でも敵機の装甲を叩き割ってしまう程だ。
 その重機関砲を撃つT-72自体も、機動性は低いが大重量と出力で大口径の火砲を運用できる強みがある。
 もちろんそれは、敵にも言える事だ。
 敵機の応射が始まる。闇の中を突き進む敵機の群れが発砲。
 敵部隊の火力は充実していて、ロケット弾に重火砲、無数の大口径機銃まで揃っている。波のような攻撃。曳光弾のシャワー。
 一瞬、この装備を奪って売ったら幾らになるだろうと、心の中で思ったが、それは生き残ってからの話だ。
 目標をシグネチャでロック。赤外線カメラ映像に映る敵機にロックオンカーソルが重ねられた瞬間、私は即座に、全ての発射筒に発射指令を送信。ランサー10基が、私達の潜む場所より更に500m離れた地点から一斉に発射され、数秒後に、7機のT-72が大爆発した。
 ランサーは、トリプル成形炸薬弾頭を搭載した、対艦ミサイル並のサイズと威力を持つ対装甲ミサイルだ。それが直撃したのだから、ひとたまりもない。
 火器管制をガンに。赤外線カメラに映る、T-72独特の山のような大躯に、手動制御で火線と散布界を重ね、トリガー。
 私の105mm48口径長セミオートカノンが火を噴き、一瞬遅れて、オドポール機の90mm55口径長ガトリング重機関砲が唸りをあげる。
「今だ! 歩兵達を退避させろ! すぐに反撃がくるぞ!」
 私の言葉以上に、反撃は思ったよりも早かった。ミサイルに火砲と、横っ面を殴り付けられ敵部隊は、一瞬怯んだものの、直ぐさま砲列を組み直して反攻を開始。
 彼らも、我々が少数であることに気付いているのだ。
「こちら3号機、もう弾がない! 4号機も同様!」
 軽薄な砲火の中、彼らのT-72は、100トン近い質量の機体を時速150km近いスピードで突っ込ませてくる。
 対装甲地雷は、敵のクラスター攻撃で無力化されているし、何より“厚み”が足りない。
 私は即座に判断した。
「オドポール、トールハンマーを使え! 装填のタイムラグは承知している。私が囮になるから、出来る限り撃ちまくれ!」
 私は、セミオートカノンを、砲身が焼き付きそうな程連射しながら、オドポールに言った。
 オドポールは何もいわずに、背面に背負われた175mm45口径長カノン砲・トールハンマーの長大な砲身を展開させて、初弾を装填。