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バールのようなもの
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novelistID. 4983
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その商店街にまつわる小品集

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一.もろこし通り



その商店街の外れにある小路は「もろこし通り」と呼ばれていた。

ここで言うもろこしというのは、トウモロコシの事ではない。小豆粉を木枠に詰めて固めた菓子で、落雁の一種である。
夕方、もろこしが出来上がる時間になると、素朴で甘い香りが町に流れる。その香りを追っていけば、地図がなくてももろこし通りにたどり着ける。
もろこしを売る小さな店はみな砂色の壁をしていて、隙間なく寄り添って並んでいる。遠くから見ると、箱に詰めたもろこしのように見えた。
その中の一軒に入り、注文をしようと小さな包みを指さした。
「いつものですね」
売り子の女の子は僕の顔を見るとなりにっこり笑って言った。
これください、と言いかけた口はそのまま言葉を飲み込んだ。
通い初めてそれほど経っていないのに、顔を覚えられているとは思わなかった。
やたら恥ずかしくなって、金を渡して逃げるように店を出た。

表通りに戻ると、夜の六時を知らせるオルガンが流れだした。夕飯の買い物をする人や帰路につく人の波の中にそっと紛れた。

まだ温かい包みを開き、小さなもろこしを摘む。口の中に入れるとほろほろと崩れて、甘味だけを残してあっという間に消えてしまう。
あと一つ。
もう一つだけ。
待つ人のいない部屋へ帰るのを、もろこしの数だけ先送りする。