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律姫 -ritsuki-
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novelistID. 8669
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夢見る明日より 確かないまを

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あの定例会があった次の日曜日の午前中、リビングでだらだらとテレビを見ながら遅めの朝ご飯を食べていたとき、携帯電話が着信を告げた。
名前も確認せずに通話ボタンを押す。
「はい?」
『松下?俺』
その一言だけで誰だかわかる。
「行田先輩、ですか?」
『そう、まだ寝てたか?』
リビングにいる母親と妹に会話を聞かれるのがなんとなく恥ずかしくてリビングを出た。
「さすがにもう寝てる時間じゃないですよ」
『だな』
「電話かけてくるなんて珍しいですね、何かあったんですか?」
『まあ、な。午後から暇か?』
「はい?」
『だから、今日の午後。部活はないだろ?』
「はい、別に予定もありませんけど」
『出かけるぞ』
「は?」
『デート。13時に渋谷な』
デートという言葉に、火曜日を思い出す。
あぁ・・そういえば俺、行田先輩と付き合ってることになってるんだっけ・・・。
付き合ってるなんてまったくもって名目上だけだ。
正直、付き合い始める前もあとも関係は何も変わってない。
別に俺はそれならそれで一向にかまわなかった。
『13時で大丈夫か?』
「・・・はい」
『じゃあ、モアイ像の方で待ってるから』
「わかりました、じゃあ後で」
『ああ、じゃあな』
断ってしまうことは簡単だけど、そうするとまた色々面倒だ。
それに、行田先輩と話してることは嫌いじゃない。いろんなこと知ってて、どんな話題でも話せるところは楽しいし、内容も機知に富んでいると思う。
多分、俺と行田先輩の間に何もなければ、尊敬できる大好きな先輩だっただろうと思う。

「はぁ・・・」
ため息をつきながらリビングに戻る。
「司、どこかにでかけるの?」
母親の問いかけに、肯定の返事をする。
「お昼ご飯は?」
「食べてから行く」
「夕飯は?」
「・・・わかんない」
「じゃあわかったら連絡しなさいよ」
その言葉に生返事を返しながら朝食の食器を片付けた。


街に出るのなんて久しぶりだ。
学校は都心にあるけれど、渋谷なんて何か用事があるとき以外には行ったこともない。

電車を降りて、駅からスクランブル交差点を見下ろすと、信号が青になった瞬間に黒い山がわらわらと動く。
駅の階段を下りて、待ち合わせ場所へ。さすがにハチ公前ほどは人はいないけれど、待ち合わせらしい人が沢山いる。
その中で知ってる顔を捜す。
「よう」
横から声をかけられた。
振り向くと、行田が立っている。
学校での印象のあまりの違いに驚きをかくせない。
「時間ぴったりだな」
腕時計を確認しながら行田が言う。
「先輩は何時からいたんですか?」
時間ぴったりはまずかったかと思いながら司が聞く。
「俺は待ってる時間も結構好きだからな」
「待たせたみたいですみません」
「そういうせりふは時間に遅れたときだけでいいんだよ」
時間より前に来るのは俺の勝手なんだから、と言葉を続けた。
「行田先輩、いつもそういう格好なんですか?」
学校ではカリスマ生徒会長の名をほしいままにして、制服を着崩すことなくきっちりときているのに、ラフな格好は目新しい。
細身のジーンズにTシャツ。シンプルな服が体のラインに沿っていて、体形のよさがわかる。それに、黒皮のリストバンドとブラウンのベルト。髪の毛もワックスを使って少し弾ませてある。
「学校とは違ってビックリしただろ」
素直に頷いて、思わず自分の服をみてしまう。それまで格好なんて気にしたこともなかったけど、場所がらもあって、周りにはハイセンスな服装が多い。
「なんか、俺、恥ずかしいですね」
中学校のころから買い換えてないTシャツにジーンズ、そして運動靴。
「別に俺は松下ならなんでもいいけど」
「中学生みたいじゃないですか?まあ、中学校から服買い換えてないから当たり前なんですけどね」
「まあ、たしかに中学生って言われりゃ信じるけどな・・・服でも買いに行くか?」
「え?」
「買い物となると・・・渋谷より原宿だよな。ちょっと歩くぞ」
「いいんですか?なんかプランがあったんじゃあ・・・?」
「別に。ただ松下と一緒にすごしたいと思っただけだから」
「・・・そうですか」
なんか・・・こんなこと言われると、よくわからなくなる。

実は、まだ頭の中でちゃんと整理ができてない。
結局、行田先輩は俺のことをどう思っているのかとか・・・よくわからないままだ。
でも、確かにあのとき先輩は好きな人がいる、といったあとに俺の名前を挙げた。
それっていうのは、俺のことが好きだっていうこと・・・?
それで、孝志は行田先輩のことを想っていて、俺はずっと孝志のことしか頭にない、と。完璧な三角関係だ。

「なにぼけっとしてんだよ、行くぞ」
「はい」

その日手に入れたのは、ボーダーのポロシャツと白シャツの2枚。
高校生のお小遣いでも手が届くような安い店をめぐってもらった。

洋服屋に入っても俺は何を選んで良いかわからなくて、キョロキョロと周りを見るだけ。
行田先輩が、そんな様子を見かねたのか、『これなんかどうだ?』と言いながら何着かもってきてくれた。
店の人に薦められるがまま、試着をしてみると、自分でいうのもなんだけど、似合ってると思った。
それというのも行田先輩の見立てがいいからだけど。

とりあえず、それらを切れば、中学生丸出しの格好とはおさらばできそうだった。

「次に俺に会う時にはそれ、着て来いよ」
そういわれて、夕飯前に別れた。
それは、また行田先輩に学外で会う機会があるってことだ。

それを複雑に思うのと同時に、今日は楽しかったな、とも思う。
お洒落をするのは嫌いじゃない。
それどころか、行田先輩の私服の格好よさには憧れる。
今度また会うことがあったら、また服を選ぶのを手伝ってもらおう。

そう考えると、今の自分の状況も忘れて少しだけ楽しい気分になった。

それは、梅雨が始まろうとしている6月初めのこと。