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書評集

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サリンジャー『フラニーとゾーイー』


 思想と感情は分離しているのではない。思想が感情を裏付け、感情が思想を裏付ける、というよりは、思想と感情が二重螺旋のように巻き付いて、どんどんその思想・感情を固定させるスパイラルを形成していくというのが正しい。
 この小説で、フラニーは、大学関係者がエゴにとらわれていて、学問を知識をひけらかすためのものとして使用し、しかもそのことに無自覚であることにひどい嫌悪感を抱く。その嫌悪感の根拠となる思想は、彼女の読書体験に基づく、真の知恵を得ることにこそ価値があるという思想だ。知識ではなく、修行者の知恵を獲得することに意義があるという思想である。その思想に照らしたとき、大学人たちは嫌悪の対象でしかない。
 しかし、事情はそう単純でもない。フラニーの嫌悪感は、彼女が卒倒したり食欲をなくしたりするほど強いもので、これはもはや身体的、全心理的なものであって、彼女の用いる思想はその憂鬱に対する単なる弁明程度の意味しか持たないようにも思える。
 つまり、一つの思想・感情スパイラルに落ち込むとき、そこには一つの飛躍が必要なのである。その飛躍は理屈では説明できない一種の気分Stimmungであろう。心身が何かしら偶然的なきっかけで変調したとき、気分の変化が起こり、それが思想・感情スパイラルへの飛躍をもたらす。
 さて、ゾーイーは、フラニーを憂鬱から引き揚げようとする。だが、フラニーは単純に気分的に落ち込んでいるのではなく、その気分を裏付ける思想まで形成して、気分をより強固なものにしてしまった。そのようなフラニーを元に戻すには説得が必要だが、その説得は、フラニーの思想とフラニーの嫌悪する事物の両方に整合的でなければならない。思想・感情スパイラルに固定された人間を説得するには、論理的な意味で相手の主張に整合するように、その負の感情を取り除くような思想を吹き込まなければならないのだ。
 だが、説得というのは果たしてそのような思想だけで成功するものであろうか。説得にも、ある飛躍が必要なはずである。思想・感情スパイラルに落ち込むとき、人間が通過した飛躍を、今度は逆向きに飛躍させなければならない。それは結局、ゾーイーの兄妹愛、というよりは、フラニーと徹底的に向き合い、フラニーの深淵にまで手を差し伸べる熱意ではなかっただろうか。フラニーは、ゾーイーの論理よりも、その背後にあるある種の執拗さによって失意から飛躍したのではないだろうか。

作品名:書評集 作家名:Beamte