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書評集

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谷崎潤一郎「刺青」


 谷崎の「刺青」は恋愛小説である。片恋でありながら、充実の伴う、そういう恋愛を描いた小説である。主人公の清吉は、彫師として、自分にとって世界の中に唯一人しか存在しない女にめぐり合い、その女の背中に刺青を彫って、その女を自らの作品とするのだ。清吉にとって、刺青を彫ることは一種の性行為であった。清吉は、自らが見染めた女の背中に蜘蛛を彫ることによって、彼女と性交したのである。その結果彼女は女として変貌し、それまでの消極的な態度から積極的な態度へと男との関わり方を変えるのだ。
 清吉は女から思いが返されなくても良かった。女を自らの作品にすることでそこから十分に達成が返されたのである。それは、女を支配することであると同時に、女から支配されることでもあった。彼は、女を絶対的な支配者とするために、女を支配したのである。彼にとって、女の背に蜘蛛を彫る行為の興奮は性行為の興奮であっただろうし、女を変貌させ女の背に作品を彫ることは、一種の生殖であっただろう。彼は彫師として、恋愛を変換した。性行為を彫る行為に、生殖を作品化に、変換した。そして彼は、女の背に蜘蛛を彫ることで、性行為と生殖を遂げ、恋愛を成就したのである。

作品名:書評集 作家名:Beamte