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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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Light And Darkness

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ACT,5





 奇妙な噂を聞いたのは、それから一週間もした頃だった。
 一週間も寝て暮らせば、躯のほうもさほどの休養を要求せず、あちらこちらを動かすのが億劫でなくなって、悠弥はひどい退屈にみまわれていた。
 松葉杖を使えば、廊下を歩くくらいは苦もなくできる。そうなると、横になっていることがなんだかたまらないのだった。
 クラスメイトが寄越すノートが日一日と堪ってゆくが、かといってそんなものに目を通すほど、高崎悠弥は優等生ではない。
 義貴はというと、全然動じず相変わらず読書に勤しむ毎日だったが。
 そんな折――。


「ねぇねぇ。昨夜、何もなかった?」
 朝の検温の時間である。だしぬけに美人の看護婦に尋ねられて、悠弥はふと首を傾げた。
 彼女は体温計を差し出しながら、
「なんかさ、当直の理恵ちゃん――あ、看護婦ね。友達なんだけど――の話でね。別にここ、病院だから珍しい話じゃないんだけど。……『出た』らしいのよねぇ」
「……『出た』?」
 悠弥は脇下体温計を挟みながら、訊き返した。
「そうなの。アレがね」
「……アレ……ですか?」
「そうなのよ。ほら、私たち、夜中に見回りするでしょ。で、昨日は理恵がね。……変な音を聞いたっていうのよね」
 悠弥は小さく肩を落とした。あまり意気込むので、もっと凄いことになっているのかと思った。 
 自分の基準が、一般人のそれとは違うことを忘れて。
「『見た』んじゃないんですか?」
「まあね。でもその音っていうのもね。なんかこう、ずるずるって凄く重いものをひきずるような音がしたらしいのよね」
「ひきずる音……ですか?」
「そう」
 ひらひら手を振って、彼女は義貴にも体温計を手渡した。どうもありがとうございます、と律義な義貴。
 表示に目線を落としながら、呟く。
「それが、例えば幽霊か何かだと……おっしゃるのですか?」
「そうねぇ。……あら、大伴君は疑わしい目をしてるわね」
「……あいにくと……そのてのモノは信じませんので」
 ほう、となるような微笑で、やんわりと、いとも冷たいあしらいの言葉をいってのける。いい性格をしている。
「なーんだぁ、つまんないの。でもこういう商売ってねぇ、その手のものと無縁じゃあないのよね。ねえねえ、悠弥君どうおもうー?」
 興味ない人は相手にしない、というあたりこの看護婦もえらくさっぱりしてる……。
 めげてない。