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さかきち@万恒河沙
さかきち@万恒河沙
novelistID. 1404
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【勾玉遊戯】inside

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ACT,9





「ただいま」
 玄関の引戸を開けると、――妹が立っていた。
 責めるまなざしが、柚真人を睨む。
 柚真人はちょっとした悪戯が露見てしまった子供のように、困った顔で首を傾げた。
「……終わったみたいね」
 そう、いう。
「うん。終わった」
 柚真人は、靴を脱いでコートを肩から降ろし、室内履に履き替える。
「そう」
 司が柚真人を追って、くるりと踵を返す。
「本当に、物好きだよね」
「……」
「……兄貴の気が知れないよ。他人の私生活に足突っ込むなんてさ。悪趣味だと思わないわけ?」
「……そう。そうかもしれないね」


 種を明かせば、簡単な事だ。


 司に背を向けたまま、柚真人は苦く笑った。
 ――お兄ちゃんが、大好き。
 三条という同級生が最初に柚真人を呼び止めたとき、柚真人は、その少年の傍らに二人の少女を見た。よく似た、幼い少女たちだった。
 ――お兄ちゃん。お兄ちゃん。あたし……この子と逝くの。もう、一緒にいられないの。
 少女の一人が一生懸命に、そう、三条に呼びかけていた。兄の祐一には、聞こえるはずもないというのに。
 蔵から出たくない、といえば、それは我儘だと叱って、誰かがその重い扉を開けてくれると思っていた。少女はそうして兄に呼びかけていたのである。

     ☆

「そうでなけりゃ、おれだって考えたんだが」
「え? なにかいった?」
「いいや。――夕御飯にしよう、司。今日はどうする? 何か食べたいものある?」
 柚真人は司を振り返る。
「まだ早いから、なんだったらこれから買い物いくよ」
「そうね。でも……何でもいい。兄貴のつくる物、美味しいから」
 笑っているような、怒っているような、呆れているような、複雑な表情で司が言う。
「おなかは空いてるのよ。さっきから。うん、なんでもいい」


 ――まいる、よな……。
 逆らえない。たったそれだけのことなのに。そんな笑顔で、そんなことをいうから、ついつい前掛なんかして、台所に立ってしまうのだ。
 ――ああ……。そうでもなきゃ。……おれだって料理なんかしやしないんだよ。そのへんのところ……わかってんのか、司ちゃん?
 嘆息して、司には悟られないように背を正す。
 ――我ながら。なにやってんのかね。不毛なことを。
 それにしたって。
 無条件に弱いんだよな。『妹』には。