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こがみ ももか
こがみ ももか
novelistID. 2182
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焼け野原にはなにが咲く

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「いや、そりゃあ自分がよくわかってるけどさ……そういう三十男の初めての不道徳が君なんだから、許してよ」
「怒ってるわけじゃないし。許すとか意味わかんない」
歌でも口ずさみそうなほど、ユリアは機嫌がいい。なぜだろう。三年もの長い時間を過ごしてきて彼女がこれだけにこにこしていた日はなかったかもしれない。歩みが軽かった。逆に、怖い。
東京からちょっと外れたここはなんだかのんびりしていて、時間が退行していく錯覚にとらわれる。徐々にフィルムが巻き取られ、僕は青年に、子どもに戻っていく。ついには母親の胎内を通り越して受精前、僕はいなくなる。そんな恐怖だ、これは。
ユリア、僕が君と会うのは今日が最後じゃないか。
小さな背中に心の中で訴えかける。言えない言葉はたくさんある。言ってはいけない言葉はもっとたくさんある。見栄と、意地と、純情と、大人である自分がせめぎあってぐずぐずになっていく。わだかまりを押し出すように息を吐いた。
「ユリア、今日はね」
振り向く。一瞬きょとんとして、それからぱっと表情が緩んだ。この子がわからない。
「最後なんだよね。もーなんかあ、誠実さんをもらってくれる女の人がいるなんて思わなかったなあ」
「失礼な」
むっとした僕が追いつくのを待って、ユリアから手を繋いでくる。やわらかくて指の長い、なまぬるい手だ。弱く、握り返す。
「ごめんごめん。だってなよってしてるし……ねえねえその人、さばさばしてて、しっかりもので、几帳面で、そんでアタシがあなたを守ってあげる系の強い人でしょ。しかも年下みたいな」
なにもかもその通り過ぎて今度こそ返す言葉がなくなってしまう。自然と手に力がこもり、ユリアがくすくす笑った。いったいどっちが大人なのかわからなくなってくる。僕は彼女に口で勝ったことがない。客とサービス側っていう関係じゃなくて、友達みたいな距離感がある。手を繋いでも、身体の交わりにすらどきどきしなくなった。彼女がこうやって僕をからかう時間が日常になった証拠だ。
けど、友達には一生なれないんだろう。
空いているほうの手で内ポケットから封筒を抜き、彼女のバッグに差し込む。特になんの反応もなく、彼女が話を続ける。
「そういうとこがいいんだよ、誠実さんは。そんで、今日はなに?」