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十五の夏

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諦めることに慣れていた。出来なくて当然。別に達成したからといって、何か変わるわけでもない。達成したらなんなのだ。終わったらそこに何が残る。出来ないことを「出来る」と宣言することが、どれ程愚かしいことなのか。知ってはいなかったが、真由には見当がついていた。自分がいくら気張ったところで、世界は変わらない。いつもと同じ角度に傾き、倒れるわけでも起き上がるわけでもなく、一定のスピードでくるくると回っているだけだ。人間が一人いなくなろうが、大して変りない。だったら…。
「いいじゃん、別に。あたしなんかいなくたって。」
 蝉時雨の降り注ぐ、中学生最後の、熱いひと夏の出来事だった。
 真由はそれまで、特に不自由のない、割と裕福な暮らしをしていた。成績も悪いわけではないし、友達だっていた。両親も優しかったし、本当に不自由なんてなかった。
 誰かが言っていた。人生はプラスマイナス・ゼロ。前半でいいことだらけなら、後半は転ぶと。どこのペテン師の言い草だかは知らないが、まさにその通りになった。
 ある日、父親が急死した。死因は過労による急性心不全。一日二時間睡眠を十年間続けたつけだった。
「お父さん、人がよすぎる上に頑張り屋さんだったからね。上司の吉川さんが言ってたよ。言いつけた仕事は残業や日曜出勤してでも、何がなんでもやりとげてたって。お父さんはやっぱりすごいね。」
お通夜で母親が真由にそう言った。母親は、真由が見たことのないような虚ろな目をしていた。棺桶の中の父親の眉間の皺はあまりとれておらず、仕事でパソコンの画面を睨んでいる顔と同じ顔をしていた。十二の真由は思った。きっとくやしかったにちがいないと。
 父親が死んでからというもの、母親も仕事を始め、家族で過ごす時間は激減した。母親は日夜を問わず時間の許す限り働き、真由とは朝食の時以外で逢うことがなくなった。家事は真由の仕事になっていた。母親の弁当をつくり、炊事洗濯をし、買い物に行って、ただひたすら母親の役に立とうとした。それでも母親はストレスでどんどん真由によそよそしくなる。友達とお喋りをする時間など当然なく、学校からすぐ帰り、家事全般を終わらせる。それが日課になって二年をだいぶ過ぎたころだった。
 朝、真由は吐き気を伴う頭痛におそわれ、母親の通報によって救急車で病院に運ばれた。
作品名:十五の夏 作家名:鋳刀純