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花月水都 そのに

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同居人が出張して、二日が経過した。携帯が繋がらないので、連絡の取り様が無い。休日にすることもなくて、コンビニで買ってきたクロスワードを暇つぶしに解いていた。
 正午のサイレンが聞こえたものの、別に空腹でもないので無視した。こんなふうにひとりで過ごす休日というのは、久しぶりのことだ。学生時代は、とりあえず、忙しくて休日は睡眠補給日だった。同居人と知り合ってからも、それは変わらなかったが、起きると同居人が、となりに寝ているというのがパターンになっていた。

・・・・そういや、ひとりだったのは、あいつが実家へ戻る時ぐらいだったよな・・・・・

 学生の頃は、一応、年末年始だけは、きっちりと、あいつは帰省していた。別に、休みではなかったから、俺は働いていたのだけど。そういえば、一度だけ年越しをしたことがあったな、と、それを思い出していた。なんだったか忘れたが、帰省するつもりだった同居人は、「帰らない」 と、言い出して一緒に、初詣に行ったのだ。大学を卒業してからは、帰省することはなくなったが、あれからは、三日の朝には帰ってきていた。大学は十日からだったのに、だ。あの当時は、まだ、そういう関係ではなくて、ただの親友ぐらいのことだった。

・・・・・あれからか・・・・おかしくなったのは・・・・・

 卒業する少し前から、そういう関係になったが、よくよく考えたら、あの年越しの後から、あいつの態度が変わったように思う。なんだか、よくわからないうちに、事態はいろいろと進んで、何がどうなったのか、花月は、俺を抱きたいとか言い出して、それから、なし崩しに関係は始まった。思い出しても、お笑いとしか言いようのないことをしていた。どっちも、やり方を知らなくて、わざわざ大学のコンピュータールームで、それらをネット上で検索して試したりしていたのだ。
・・・・今では、ベテランやろうなあ・・・・
 最初のドタバタを思い出して、笑ってしまった。まるで、プロレスでもしているのか? というぐらいの乱暴さだったし、加減がわからなくて、どっちも一日、沈没したこともある。世間に、そういう人間がいることは知っていたが、まさか、自分がそうなるとは思わなかった。俺の正しい人生設計というものは、そこで頓挫した。だが、離れようと思ったことはない。もう、すでに、それは無理なんだろうと、身体が感じている。夫という地位は、手に出来なかったが、嫁という地位は手に入れた。誰かと一緒に暮らして、とりあえず死ぬまで生きているという設計の根本は、ちゃんと遂行されたと思う。それも、「愛してる」とかいう恥ずかしい関係ではなくて、花月という人間がいることで、安堵できるという関係に確立された。


 ぼんやりとしていたら、いきなり携帯が鳴った。見慣れない番号なので、少し躊躇して、それから出た。もしかして、同居人からかもしれないと思ったからだ。
「・・・もしもし・・・・はい・・・浪速ですが?・・・・・え? みどうすじ? ・・・え? はあ、いえ、こちらこそ、ご迷惑を・・・はあ・・・ええ・・・」
 電話の相手は、同居人の同僚で、少し前に、とんでもないイベントに参加させてくれた人でもあった。初めまして、の挨拶から自己紹介までして、いきなり、御堂筋さんは、「今、そちらの最寄り駅なんですが・・・」 と、切り出した。
「すいません、お昼、まだですよね? 一緒に食べてもらえませんか? 」
「え? 」
「えーっと、吉本から頼まれてもうて・・・・なんでも、浪速さんは、ひとりだと食事もしないから、相手をして欲しいって頼まれたんですわ。」
 恐縮する御堂筋さんは、同居人に頼まれたらしく、律儀に電話してきたらしい。
・・・・・子供やあるまいし・・・なに、頼んどるんじゃっっ、あのたわけっっ・・・・
 内心で、同居人を罵りつつ、丁寧に断った。しかし、相手も折れてはくれない。一度でも食事をしないと、後から大変なことになると、懇願されるにいたって、「わかりました。」 と、重い腰を上げた。
 駅前で待ち合わせて、近くのファミレスで食事をすることになった。顔も見たことの無い相手では、話も進まないし、気づつない気分ではあった。
「はじめまして、御堂筋です。 この間は、助かりました。」
「こちらこそ、浪速です。大丈夫でしたか? 」
 当たり障りのない会話をしながら、サービスランチを食べた。
「あの、吉本は、なんのポカをやらかしたんですか? 」
「えーっと、俺も詳しいことはわからんのですけど、なんか東京事務所との連絡ミスがあったらしくて、担当のあいつが出向かな話にならんかったみたいで・・・・代われるんやったら代わったったんですけど。」
「そうですか。あいつ、どっか抜けてるから、迷惑かけてるんちゃいますか? 」
「いや、そんなことはあらしまへん。でも、相当に浪速さんのことは心配やったらしくて、なんでもいいから、『飯を食わせてくれ』って拝み倒されましたで。そんなに無頓着なんですか? 」
「そんなことはないねんけどなあ。食べてますよ。自炊するほどのことはしてへんけど。・・・ほんま、すいません。帰ってきたら、制裁を加えておきますから。」
 なぜ、わざわざ見知らぬ相手と食事なんかせなあかんのや、と、首を傾げつつ、とりあえず食べた。食べ終われば帰れるだろうと思ってのことだ。
「せやせや、帰りにスーパー行きましょ。」
「え? 」
「金預かってるから、レトルトとか買わしてもらいますわ。」
「金預かってるって? 」
「ほんまは、二日か三日に一度は食事に誘ってくれ、と、言われてますけど、仕事あるし、浪速さんは時間が遅いんでしょ? せやから、折衷案ということで、ええですか? 」
「はあ、まあ、ええですけど。・・・・あいつ、頭に虫でも湧かしとるんちゃいますか? 俺、そこまで生活不能力者やないねんけどなあ。」
「さあ、俺もようわかりませんわ。まあ惚れとるってことにしといたら、どうですか? 」
 そこで、ふと気づいた。この人は、うちの関係を知っているのだ。
「御堂筋さん、気持ち悪いとかきしょいとかないんですか? その・・ほら・・うちは・・・」
 直接には言えなくて、ちょっと口ごもった。普通の感覚では、気持ち悪いと言われても仕方がない。しかし、相手は、カラカラと笑って手を振った。
「なぁーんもありません。別に、そんなん個人の趣味ですやろ? 俺は、そっちではないけど、別に、ええと思います。・・・・気楽やろうな、とは思います。」
「気楽ですね、確かに。」
「イベントごとにプレゼントせんでもええし、ホテルでディナーとか、気取ったラウンジでカクテルとか、そんなん考えんでもええっちゅーのは、羨ましいことですわ。」
作品名:花月水都 そのに 作家名:篠義