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ウブメ橋

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2.男子学生と高尾君




 学校はタイクツだ。
 教室には生徒が33人、そこに教師を一人含めて34人もの人間がいるのに誰一人として僕を気にも留めない。
 たまに視線が合ったとしても、視線は僕を通り抜けていく。
 現在世界には70億人近い人がいるというのに僕は、一人だ。

 孤独だった僕に友達が出来たのは三ヶ月前のことだ。
 放課後の教室に今日も隣のクラスの高尾がやってきた。
「なあ。ウブメって知ってるか?」
 頭を振る。知らない。
 だけど高尾のことだから十中八九幽霊か妖怪の名前なのだろうが。
「なんだ。知らないのか。お前はどちらかというと幽霊専門だからな」
 高尾は唇を尖らせながらも、すぐに機嫌よくウブメの説明を始める。
 妖怪に興味が無い僕は知らなかったが、ウブメという妖怪は割と有名な妖怪らしい。
「産む女と書いて産女。あるいは女偏に古い、獲得の獲、鳥で姑獲鳥と読む。小説のタイトルとなったのは難しい漢字の方だ」
 名前からして僕達とは遠い存在のように感じられる。
 さらに高尾は中国の怪奇小説と合わさったとか、子供を産まずに死んだ女性が化けて出るとか、おどろおどろしく薀蓄を披露してくれるが、そのウブメさん自体には僕は実際のところ興味を持てなかった。
 ただ僕は、僕なんかに熱心に話し聞かせてくれ、僕が話しをすればちゃんと聞いてくれる、一人の人間として扱われる、そんな当たり前のことがひどく嬉しかった。
 一通りウブメさんの話を説明し終えた高尾は額の汗を拭いにやりと口角を上げた。
「出るんだよ。そのウブメが。ここにも」
「見たいんだ?」
「是非」
 高尾の話によると地元の夏祭りの夜、橋の下にウブメが現れるという都市伝説のようなものがあるらしい。
 友達のいない僕は聞いたことすらなかった。
 夏祭り自体小学校低学年以来行っていない。
 僕達は二週間後のその夜ウブメを見に行くと約束をした。
 ウブメなんてどうでもいい。
 幽霊なんて怖かない。
 友達と遊びに行くことが僕にとっては大事なことだった。


 その帰り道で僕は高尾に昨夜も金縛りにあったことを話した。
 ひどい霊媒体質の僕は日常的に幽霊を見る。怖い話というよりは愚痴に近い話を高尾は熱心に聞いてくれた。
 高尾は最初からこんなやつだった。普通の人間ならば引いてしまう話を笑って聞いてくれる。次の日になってシカトしてくるといったこともない。
 いつだったか高尾に「どうして僕に話しかけるんだ」と尋ねると、高尾は「だってトモダチだろ?」と即答してくれた。
 トモダチ、と数度呟く。
 今までは忌々しいだけの単語でしかなかったが、不思議なことに今ではいい響きだと思えるし、尊い言葉にさえ聞こえる。
「高尾君?」
 くだらない話で盛り上がっていた僕達の間に女性の声が割って入る。
 高尾が素早く振り返る。珍しく強張った高尾の横顔を見て、僕も同じようにして後ろを振り返った。
 僕たちとさほど年の変わらない若い女性が立っていた。淡いブルーのワンピースの上に紺色のカーディガンのようなものを着ている。髪の毛の色は真っ黒で、化粧はしているのかしていないのか女性や流行に疎い僕にはよくわからない。
 確実に言えることは僕から見ても全体的に地味な女性だということだけだ。
 女性は柔らかい笑顔を高尾に向ける。顔見知り以上の関係のようだと僕は勝手に推測する。 
「久しぶり、高尾君」
 高尾の左目の瞼がぴくりと震えた。
 険しい顔を高尾は僕に向ける。
「遠い親戚のお姉さんなんだ。色々トラブってて。また今度話すから、明日」
 一気に早口で言いきると、高尾は「久しぶり、伊藤さん」と笑いかけ、場所を変えることを彼女に提案して、彼女の腕を引っ張って歩いていく。
 僕はその場に佇み、遠くなっていく二人の背中を見つめる。
 ふいに彼女が振り返り視線が交差する。
 どこかこちらを憐れむような冷たい瞳に、僕は何か思い出してはいけないものを思い出しそうになり、俯いた。
 僕もあの女性に会ったことがある。
 でも、一体どこで。
作品名:ウブメ橋 作家名:高須きの