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王子と伴侶のまさかのハロウィン!

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 何事もなかったかのように話すシヴァに、深雪の柳眉が悔しそうに下がる。
「むぅ。ヘソなんか出すんじゃなかった。……それからね、仮装をした子供たちが、大人に『トリック・オア・トリート』って言って」
「? 悪戯かお菓子か?」
「正しくは『お菓子をくれなきゃ、悪戯するぞ!』だよ」
 深雪は難しい顔をしたまま告げると、ふと悪戯を思いついたようにもう一度シヴァに身を寄せる。
 それから満面の笑みを浮かべて、シヴァの耳朶にちゅ、とちいさくキスを落とした。
 魔界人の弱点は耳。
 それはもちろんシヴァも例外ではない。突然の深雪の行為に、シヴァは珍しくもぴくりと片肩を震わせて、深雪の悪戯をやめさせようと腰に手を伸ばした。
「お菓子をくれなきゃ、悪戯するぞ」
 ぴ、とシヴァに指をさして深雪が可愛らしく告げた、その時だった――。

――どーん! ばふんッ!
 突然大きな音が響き、室内の明かりが全部、落ちた。

「ひゃっ!」
 あまりの大きな音に深雪が耳を押さえて、きゅっと瞳を閉じる。
 無意識に傍にいるシヴァにすがり付こうとした……のに何故か深雪はいつの間にかベッドのリネンと仲良くなっていた。
「あ、あれ? しば……?」
 ついさきほどまですぐそばにいて、温もりを感じていたシヴァが近くにいない。
 深雪はすぅっと背筋が寒くなるような心地を覚えて軽く取り乱してしまう。
「しば、しば……」
 室内は暗く視界が悪いけれど、深雪はただ手を伸ばして名前を呼ぶ。
「……ここだ、深雪」
 深雪の声に呼応するように、衣擦れの音の後にシヴァの声が聞こえてくる。いつもと同じその声を聞いただけなのに、深雪はほっと息を吐く。
 同時にふにゃりと泣き崩れそうになってしまう。
「なあ。どこ、しば?」
「ここにいるぞ。……参ったな、すっかり忘れていたが鰻雷が来ていたんだったな」
 呟くようなシヴァの声に、深雪も言われてみれば、と窓の外に視線を向ける。
 まだ雷がぴかぴかと稲光を放っていて、どうやらこの突然の消灯は雷が落ちた、ということなのだろう。
 ついうっかり二人きりの世界でいちゃいちゃしていたので、こんな形で干渉されるまで、深雪もシヴァも気づかなかったのだ。
「びっくりしたね、しば」
 窓の外に写る稲光を眺めながら、深雪はちいさく息を吐く。
 突然のことも原因がわかればなにも問題はない。
 しかし、伸ばした手にようやくシヴァの温もりが触れて、その手を握り返そうとした時、深雪ははた、と気がついた。
「……あれ?」
 シヴァの手は何故か、知っているそれよりも、ずっとずっと小さかった、のだ。
「ちょ、しば!?」
 慌てて手に掴んだそれを胸元に引き寄せ抱き上げると、それは仔猫程度の大きさでとても軽い。
 触った感じは体長約三十センチメートルほど。
 ミニチュアになっているようではあるが、その生物はいつものシヴァの匂いがした。
 そしてまたその時走った稲光が一瞬部屋を明るく照らす。

「!! しばが、しばがちっちゃくなっちゃったー!」
 

* *


 まだ室内は暗いままだ。
 明かりがつくまでにはもう少々時間がかかりそうだと言うシヴァと、深雪はとりあえず現在の状況をまとめてみることにした。動揺も激しく、現状でも確認していなければやってられなかった、というのは深雪の本音でもある。
 すると、『お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ』と深雪が決めゼリフを放った瞬間、通常ゆらんゆらんと揺らめいているアンテナに、びびびと何かが落ちてきて、人差し指を伝ってシヴァに何かが向かってきた、ということらしかった。

「……つまりこれは俺が深雪にお菓子をあげなかったことによる、ハロウィン的な悪戯……」
「なに言ってるんだよ、こんなときに暢気にボケないでよー!」
 のんびりと告げるシヴァに、深雪の容赦ない突込みが入る。そして深雪は困ったように腕の中のそれをぎゅむむ、と抱きしめた。
「こんなお人形さんみたいなしば……さらわれちゃうよ」
「それはないと思うが、とりあえず。問題は明日重要な来賓との謁見があることだ」
「な、なんだってー!」
 シヴァの言葉に、思わず深雪の顔が驚愕で固まってしまう。
「俺はこのままでもあまり困らないんだが……ただ一つだけ気がかりなのは、この姿で深雪を抱いたらどれだけ満足させられるのか、という重大な不安が……」
 あまりにもお馬鹿なことを告げるシヴァに「今はそれどころじゃない!」と、またしても深雪が突っ込みを入れようとした時だった。

――どんどん、どんどん!

 ドアを叩く音が、二人の寝室まで届いた。
『シヴァ様、深雪様、大丈夫ですか!? 鰻雷の影響で、ただいま城内は……』
 続いてシヴァの腹心である、騎士団長バルガの声が響く。

 その声に思わず、深雪はまたシヴァを抱きしめて、それから動揺したように問いかけた。
「どどどどど、どうしよう、しば……」
「ふむ、まずは第一関門だな」
「怒られるどころの話じゃないよー!」
 かつて、いや現在も深雪は騎士団長に『伴侶として!』と厳しく日々注意を受けている。
 しかも今の深雪の格好はヘソ出しで、シヴァはどこからどう見ても品のいい、可動式の六分の一スケールフィギュアでしかない。

「ううう、怒られない理由が見つからない……」
 バルガはまだドアを叩いている。安否確認を急いでいるのだろう。
「まあ、仕方があるまい。行くぞ、深雪」
 まだ躊躇っている深雪の背中を押すように、シヴァがその胸元をとんとんと叩く。
 深雪も不承不承といった風に、シヴァを抱いたまま立ち上がる。
 そして重い足取りのまま、応接室の扉へと向かったのだった。


 
 この後、鰻雷の轟音とともに、騎士団長バルガの悲鳴が鳴り響いたのは、言うまでもない。