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マンホール・チルドレン

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男の子は物心つく頃から親に捨てられたホームレスでした。周りにいた同じような境遇の子供達と「街」から遠く離れた野原で暮らしており、盗賊の大人達と一緒に近くの村へこそっと忍び込んで、畑を荒らしたり勝手に家に上がり込んで盗みを働いたり、ゴミ捨て場を漁ったりしてはお腹を満たし、そのグループは生き延びていました。


 ある時ちょっとしたいざこざが原因で、男の子はグループから外され、そしてどこにも居場所がなくなった男の子は、「街」へ行くことにしました。「街」へ行けば、何か食べ物にありつける仕事を見つけることができると思ったからです。


 季節は冬で、ものすごい寒さの中、男の子は雪原を歩き続けました。そうして「街」へ近付いてくると、「街」の入り口に立っている門番の目を盗んで、城壁に囲まれた「街」へ入りました。


 男の子は何日も吹雪の中、「街」をさまよい歩き回りました。しかし全く仕事は見つからず、空腹の我慢の限界のため、とうとう見たこともないような美味しそうなパンが並んであるパン屋で、フランスパンを盗もうとしましたが失敗し、知らせを受けた警察官に追いかけられました。男の子はなんとか警察官から逃げ切ることに成功しましたが、吹雪のために全く視界がなく、どこを歩いているのかさえ分からなくなり、寒さと、極度の疲労と、空腹で、とうとう道端に倒れてしまいました。


 ふと意識が戻り気が付くと、暗闇の中で、ポカポカと暖かい空気を感じて、とうとう天国に来たのかと思いました。まぶたを開けて起き上がってみると、男の子には小汚い肌色の毛布がかけられていました。壁は複雑に入り組んだパイプで埋め尽くされていて、時々、その意図的にきれつを入れたパイプから、「プシュー!!」と熱そうな水蒸気が噴き出していて、その熱でこの空間は暖かくなっているようでした。小さなタンスの上には、黒ずんだランプがゆらゆらと揺れて灯っています。
「やっと目を覚ましたか」
 と突然近くから声がして、狭苦しい空間をキョロキョロ見回してみると、パイプの壁にもたれかかっている、男の子と同じ年齢ぐらいの赤毛の子供は言いました。
「…ここはどこ?」男の子は目をこすりながらたずねました。
「ここはおいらの家だ」と赤毛の子供はふん、と笑い得意気に言いました。


 話を聞いてみると、赤毛の子供はマンホールの下に住んでいて、どうやら男の子と同じ孤児のようでした。物心ついた時から、マンホールの中に住んでいたというのです。
 男の子は赤毛の子供からフランスパンの半分と水をもらい、あっという間に食べてしまうと、「どうやって食べ物を手に入れているの?」と、不思議に思って聞いてみました。
「それは〝お金〟でちゃんと買っているのさ。お前、今までずっと盗みをしていたろ。その顔を見ればすぐに分かるぜ」
「どうやってお金をかせいでいるの?」
「街中のゴミ捨て場や住民達からいらない鉄くずをもらって、この街の外れにある、自動車工場で買い取ってもらうんだ。あそこは今隣の国とこの国が戦争しているから、鉄が不足していて、普段は自動車を造っている所なんだけど、〝兵器〟を製造するために沢山必要で、高く買い取ってくれるんだ」と赤毛の子供は鼻をほじりながら言いました。
「君は戦争に反対していないの?」と男の子が聞きますと、
「そんなのおいら達よりも大きくて賢い大人達が勝手にやっていることだから、おいら達には関係ないさ。たとえ兵役が来ても、おいらは絶対に人を殺しに戦争なんか行かない。そんなことまるっきり意味がないことだからね」と赤毛の子供は笑って口笛を少し吹きました。


 マンホールの蓋を開けて外に顔を出してみると、吹雪は止んでいて、分厚い氷で覆われている道路を綺麗な円形でくり抜いて、マンホールへの穴が空いていました。すると突然車が目の前にクラクションを鳴らしながら走ってきて、男の子は思わず急いで体を引っ込め、蓋を閉めました。
 心臓がバクバクして顔が真っ青になっている男の子を見て赤毛の子供は腹を抱えて大笑いして、
「最近できたこの街には〝孤児院〟というものがまだ無いから、親に捨てられた大勢の子供達が街中のマンホールの下に住んでいる。ここ、子供達の世界にもちゃんとした社会があって、年長の兄ちゃんがホームレスの子供達を仕切っているんだ。お前はずっとおいらの家にいていいから、取りあえず、兄ちゃんまの所へ行ってあいさつしてこようぜ。それがおいら達子供達の社会のしきたりだ。兄ちゃんの家は、はんか街の入り組んだ路地裏の一番奥のマンホールの下にある」
 と言いました。


 先日追いかけられた警察官に見つからないようにびくびくしながら、赤毛の子供から借りた大きなコートのえりを立てて、ぶかぶかの穴の空いた靴をパタパタ鳴らしながら、夜中の疲れで眠ってしまったようなはんか街を横切って、路地裏に着きました。複雑な道を赤毛の子供が先導して歩いていくと、袋小路に当たり、一際大きなマンホールの上の氷が融けていました。赤毛の子供はそこまで歩いていくと、しゃがみ込んで、トントントン、と、僅かに暖かいマンホールの蓋を三回ノックしました。
「…合い言葉は?」
「〝我ら、街の未来の勇姿達、マンホール・チルドレン〟」
「…よし、入っていいぞ」とマンホールの下から少し大人びた声が聞こえてきました。
 男の子と赤毛の子供は一緒に力を振り絞って特別重い蓋をずらしますと、穴の中から白くて熱い水蒸気がもうもうと溢れてきて、目がしばしばしケホケホと咳が出てきました。しばらくすると水蒸気が消えて、中をのぞき込んでみると、高校生ぐらいの目が青く透き通った少年がはしごから顔を上げていました。
「そいつは新入りか?」
「そうだよ。一昨日吹雪の中、街中でこいつが倒れているのを偶然仕事の帰りに見つけて。どうしようかと思ったけど、熱があったから、おいらの家で看病してたんだい」と胸を張ってそう言いました。
 すると少年は、
「よくやったな。ほうびにチョコレートをやる。後でそいつと二つに分けて食べろ。いいか?」と笑顔で言うと、
「ホント!? やっぱり助けて良かった!!」 赤毛の子供ははしゃいで言いました。
「…とりあえず、外じゃ寒いから、俺の家の中へ入れよ。ホットチョコレートでもごちそうしてやる」
 と少年は笑みを崩さずに言って、二人を家へ招きました。


 少年のマンホールの家にすきまなくある本だなにびっしりと埋まっている古本を眺めて、入れ立てのホットチョコレートを飲むと、凍えていた体が芯まで暖まりました。
「よう新入り。お前も〝孤児〟かい?」と少年は男の子にたずねました。
「そうです」と男の子は答えました。
 男の子は自分の今までの事を二人に話しました。赤毛の男の子と少年は真剣になってその話を聞いていました。男の子がその話を話し終えると、少年は、