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山を翔けた青春

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1981年3月、
 パタパタパタパタ パタパタパタパタ 
 青いテントシートが強風にあおられて、広げようとすると風に持って行かれそうになっていた。テントを抱えたまま広田は叫んだ。
「一緒に押さえて、早くぅ!」
 ザックを担いだままの笹木、山野、岡田はすばやく駆け寄り、テントシートを広げようとした。
「ポールはまだ!?」
 ザックを下ろしてポールを出そうとしていた山下はその様子を見て、
「ポールは無理やわ、そのまま中に入って!」
と言って、入り口を探した。
 広げられたテントシートは、大きく山なりになり持ち上げられたままさらわれそうだ。地面に押さえつけてザックを放り込み、登山靴のまま広田と岡田が中に入った。四隅にザックをおもしとして置いていく。
 笹木たちは、はずしたアイゼンとピッケルをテントのそばにまとめて置き、すばやく潜り込んだ。防風壁を作ろうと雪をかき集めたが、すぐに風に飛ばされたのであきらめたのだ。
 ポールのないテントは頭に覆いかぶさり、時々風を孕んで持って行かれそうになった。5人は踏ん張った。


 5人の女性たちは、昨日は立場川から八ヶ岳の阿弥陀岳南稜に入り、無名峰の森林限界点で設営した。団体のパーティーがツェルトを張っていた。
 夜には風が出て、雨が降り出した。
 朝になると雨は雪に変わっていたので、雨具をヤッケに変えた。
「ちょっと、あの団体、先に行ってくれたら楽やと思えへん?」
 その期待は裏切られて、団体は下って行った。
 ガスが出て視界が悪くなってきた。風も止む気配がない。それでもアイゼンを着けて出発した。

 交替で先頭に立ち、トレースを付けていった。

 わっ、と言って先頭にいた笹木は腰まで雪に埋まり、そこから出ようともがいた。雪庇が張り出しており、その雪溜まりに突っ込んだのだ。二番手にいた山野が先頭となり笹木の横を通り過ぎ、トレースを付けていった。山下が笹木に手を差し出して雪から引き上げた。
「ありがとう、えらい目におうたわ」
と言いながら最後尾についた。

 2つ目のピークを過ぎると岩場が出てきた。山下―山野、笹木―広田―岡田のオーダーでザイルをつないだ。
「簡単に登れるやろ」
 ベテランの笹木はそう言うが、ザイルは風にあおられて腰に重みがかかってくる。慎重に、時々耐風姿勢を取って我慢強く踏ん張り、風が弱くなる瞬間を待った。

 出発してから4時間半。やっと阿弥陀岳の頂上について、ザイルを解くことができた。風の冷たさで顔は凍りつき誰も言葉を発しない。ザックから行動食を取り出して口に押し込み、テルモスのぬるくなったコーヒーで無理に飲み下していった。

 1時間ほど下ったところで風は一層強さを増し、雪が顔の露出部に突き刺さり、その痛みにゆがんだ。山下は地図と磁石で方向を確認しようとしたがガスが濃く、目印がない。前進は無理だと判断してここで設営することにした。
 まだ正午をまわったところだった。


「ううっ、重い」
 風に運ばれて集まった雪がテントを圧迫して、ザックの上に外からのしかかっていた。狭くなった空間で、5人は折り重なって寝ていたのである。胸の上に足が、頭は足を枕に・・・からだが固まってしまってだれも動こうとしない。一番に口を切ったら、外に出て雪をかきに行かないといけないような気がしたからである。
 山下は、ンもう!と言って外に出ていった。岡田も後に続いて、よく締まった雪をかきに出た。
 風はあるが、さわやかな青空だ。
「うーん、気持ちいいー」
と伸びをすると、テントの入口に3つの顔が並んだ。不安な夜にもかかわらず、みんなぐっすりと眠った顔だ。
 太陽の光を受けて輝く、赤岳の雄姿が待ち受けていた。


 岡田寛子が大阪山岳会に入って、ちょうど1年目の山行であった。
作品名:山を翔けた青春 作家名:健忘真実