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ある詩人による光の世界と星々の戦争の話

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これよりお話するお話は、詩人である私が昔大学を病気で休学し、この街に帰郷したさいに体験した不思議なお話です。


 それより十三年前にさかのぼることになりますが、この国が戦争中だったある時、この孤児院で生まれた時から共に育った、マリアという女の子と、庭でもみの木にクリスマスツリーのかざりつけをしていた時です。
 とつぜん空から何かが降ってきて、それが孤児院の向こう側の森の中に落ち、ドーンと音がして光るのが見えたのです。
「あれは!?」
 それは、二人がいつも行っている森の中の秘密の場所のある方角でした。私達は目を合わせたとたん、一せいにその方向へとかけ出しました。息を切らせながらその場所にたどり着くと、地面には茶色い車が一台ぐしゃぐしゃになって黒い煙を上げていました。そのすぐそばに目をやると、二人が木のえだや葉っぱをかき集めて作った、〝ひみつの家〟の天井に一人の老人が引っかかっていしきを失っていました。
「マリア、早く人を呼んで来て!!」
 すぐにきゅうきゅう車が来て、おじいさんを運んで行きました。
 その夜、私もマリアも、生まれて初めてのでき事と、どうして車とおじいさんが落ちてきたのかと考えて、頭がさえて眠れませんでした。


 翌日、けいさつが現場けんしょうをしましたが、結局事故の原因は分からず、本人がいしきを取り戻してから聞いてみるしかないという事になったそうです。ただ、車はぺしゃんこになってしまったのに、私達の作った小屋がクッションとなっておじいさんは命を取りとめたのだということでした。私達はおじいさんのことが気になって仕方がないので、おじいさんの入院している病院へ、様子を見に行きました。それは毎日のように続き、学校が終わるとすぐに病院へ向かいました。


 そんなある日、おじいさんはやっといしきが戻って、私達は大よろこびしました。私達は毎日二人でおこづかいを出し合って果物屋さんに寄って、リンゴを一こ買って見まいに行きました。リンゴの皮むきがとくいなマリアはリンゴをうさぎ型に切っておじいさんをよろこばせました。私もある時皮むきにちょう戦してみると、ガタガタでゴルフボールぐらいの大きさになりマリアやおじいさんを笑わせました。おじいさんはあまりものを言わない方でした。
 あっという間にクリスマス・イヴが来て、その日は終業式だったので、学校が午前中で終わりました。街は雪でおおわれていましたが、街の人々の熱気で解けてしまいそうでした。子供達が両親や祖父母に、玩具店のショーウインドウに飾られている機関車もけいを一生けん命ねだっていました。かねてよりそれに目をつけていた私には、それがうらやましくてたまりませんでした。共に孤児院育ちの私とマリアには、今のあなた達のように高価なクリスマスプレゼントはもらえなかったのです。私とマリアは互いの手のひらに二人の全財産を出してみましたが、わずかな銅貨が数枚あるだけでした。もしその機関車もけいを買えたらマリアにも貸してあげると約束していたのです。私達はひどく落ちこんで、いつものように果物屋でリンゴを一つ買い、おじいさんの病院へ行きました。マリアという名前は、雪の降るクリスマスの朝、孤児院の外に赤ん坊だった彼女が置かれていたからです。
 おじいさんの病室でリンゴ一こでクリスマスパーティーをし終えて、孤児院へ帰る時間になると、
「いつもありがとう。これは君達二人への私からのクリスマスプレゼントだよ」
 と言って、私達に二枚の小さな紙のようなものを差し出しました。私はそれが何なのか分からず一しゅんまゆをひそめましたが、よく見てみると、それはどうやら切符のようでした。
「今はまだ使えないけれど、いつかもし辛いことが君達の目の前に立ちふさがったら、月が〝ふた〟を開けた時、この街から一番近い廃線の駅へこの切符を持って行ってみなさい。きっとその困なんを乗りこえられる幸せなことが起こり、願い事が叶うから」
 とおじいさんはにっこり笑って私達の小さな手のひらに乗せました。おじいさんの言っていることの意味が分かりませんでしたが、私達は不思議なプレゼントをもらったことでとてもうれしくなって、雪の降る夜道を駆けて帰ったのを覚えています。
 次の日、クリスマスの日に、私達はいつものように病院へ行くとおじいさんの姿はどこにもありませんでした。誰に聞いてもおじいさんの行方は分かりませんでした。
「きっとおじいさんは〝サンタクロース〟だったのよ。世界中の子供達にクリスマスプレゼントを配るために夜中に病院を抜け出したの」とマリアは主張しましたが、私はそのことが信じられませんでした。


 それから年が明けるとすぐに、マリアの父親だという人が孤児院をたずねてきました。マリアの母親はマリアを産んですぐに亡くなり、父親は戦争に行かなければならなかったので、どうすることもできずにやむなくこの孤児院の外にマリアを置いていったというのです。足をけがをし戦地から戻って来たので、一緒に暮らすためマリアを迎えに来たと言い、それならば問題はないということになり、マリアは孤児院を去ることになりました。別れる間ぎわ、マリアは言いました。
「…私とおじいさんのプレゼントのこと、忘れないでね。きっと私達が大人になったら一緒に廃線を探して、この戦争が終わることを一緒に願いましょう。約束よ」


 次の年、この国はマリアがもらわれた国と戦争を始めました。文通もとだえました。年を重ねて大学へ行っても、私はマリアとの約束を忘れませんでした。切符は大切に宝箱の中に入れて置きました。しかし戦争の激しさが増し、兵役が私の元にも来た時、孤児院の院長からマリアが死んだことを知らされました。マリアは戦場の最前線の野戦病院というところでかんご婦として働いていたらしいのですが、激しいばくげきに飲まれ、遺体もまだ見つかっていないらしいです。私はショックのあまり、〝心の病気〟になり、兵役は除隊されたのですが、大学を休学し、故郷へ帰り、治りょうをよぎなくされたのです。
 通院のたび通りかかる孤児院の庭には、あの時のもみの木がすでに切られて無くなっていました。りょうよう中、ぜつぼうの真っただ中にいた私は、私が故郷をはなれている間に廃線となった駅を見つけることができました。昔、助けたおじいさんが話してくれたことを思い出し、〝月がふたを開けた時〟というのは、月が満月の時のことだと、満月の夜にその廃線駅へ行きました。生憎その日はクリスマス・イヴでした。しんしんと雪の降る中、切符をコートのポケットの中で大切に固くにぎってプラットホームで立っておりますと、背後からとつぜん人の気配がして振り返りますと、なんと、記憶の中のあの幼き日のマリアが立っていました。私は思わずひとみが涙でうるみ、再会をよろこび合っていると、いつの間にか私も子供の頃の体に戻っているではありませんか。
 マリアは、「今晩だけ、あのおじいさんに、あなたが一番印象的に記憶している姿に戻していただいたの」と目を真っ赤にさせて言いました。私達はお互い切符を持っている手をにぎり合って、じっと夜空をながめていました。