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メビウスの値札

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いったい私達は、何の為に小中高と、それこそ十何年もの長きに渡り、やれ、ものの数はちゃんと数えられなければならないとか、文章は正しく分かりやすくだとか、文字の書き順にいたるまで、こと細かに学んできたのであろうか。最近そんな事を考えさせられる出来事があった。
最寄りの商店街をぶらついていたときのことだ。
ふと婦人服店の方に目をやると、袖のない薄手のシャツが店頭に並んでいて、そこに値札か゛ついていた。
その値札には、"タンクト゜¥380"と書かれていた。
"タンクト゜"?。
この現象に合理的な説明をつけるとするならば、突如出現した異次元の裂け目に"ッフ"の部分が吸い込まれて、値札がこの世界と異次元の間でねじれているという状態である。
私は、おそらくこれを見た人のほとんどが最初に思うであろう「なんて読むんだよ!!」というツッコミなどいれつつ、しばし冷静に眺めたが、「なるほど、その手があったかー!」とは、決してなるはずもないのであった。
これは憶測であるが、おそらく、この店の主人は"タンクトップ"と書こうとした。
その際に、目測を誤り、"ッフ゜"を書くべきスペースがなくなった。
さあ、ここからが問題である。
凡人の場合は、"タンクトップ"と、"ップ"が細くなり幾分不恰好ではあるが、無理やり残りのわずかなスペースに書き込む。
か、もしくは、不本意ながら、行をかえてしまう。
このどちらかである。
しかし、ここの主人は違った。
その日の主人はちょっと違った。
「ひらめいたー!!」のだ。
とても恐ろしいことを。
"ト"に"゜"をつけるという暴挙を。
何という力わざ!しかし、ここまで考えたとき、突如、私は「笑うせぇるすまん」に人差し指を突きつけられた時のような「ド~ン」という、衝撃とともに、ある種の啓示を受けたのである。
「なんて読むんだよ!!」といいながら、私は内心"タンクトップ"だとわかっていたのだ。
この値札を見た人のほとんどが、その意味するところを、おそらく一瞬にして、理解してしまう。
それが問題なのだ。
わかってしまうこちらの負けなのである。
この事実を理解したとき、私は愕然としたのだ。
しかし、「行間」ならぬ「字間」を読ませるとは、何たる殿様商売。
何とも悔しいではないか。
詰め込み世代である私はゆとり教育なんてものは知らない。
文字の書き順を間違え、廊下に立たされていた小学生の私は、何を反省させられ、何を学ばせられたのだろう。
この値札を見たとき頭に受けた衝撃は、廊下に立たされ持たされていたバケツの重さに等しい。
今、若者の言葉が乱れているなどといって問題視しているような人がいるが、この人達は、"タンクト゜"が大手をふってまかり通っていることを知らない。
また、昨今の問題といえば、モンスターペアレントなどのクレーマーの問題があるが、おそらく、この店にクレーマーはこない。
"タンクト゜"の値札はクレーマー払いの御札なのである。
クレーマーは親切心につけこむ。
細かいサービスを謳ったところにつけこむ。
この店に細かいサービスはない。
そんなことを考えている間に、"タンクト゜"は売りきれるのである。
作品名:メビウスの値札 作家名:k.k