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うさぎ

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昔々、あるところに美しい碧の瞳の男がおりました。

男はいつも本心なのか、照れ隠しなのか分からないような皮肉ばかり言っておりましたので、人間にはあまり好かれておりませんでした。しかし、人間以外のものには優しかったので、そういう人間以外のもの、例えば動物やら植物やら妖精やら(なんと、この男には妖精が見えたのです!)には、たいへん好かれておりました。

ある日、自らが心を込めて毎日手入れをしている薔薇やナルキッソスの美しい庭園で男がお茶を楽しんでいると、一羽のうさぎが迷いこんできました。よく見ると、そのうさぎは怪我をしています。
男は血を洗い流し、消毒をして、包帯を巻いてやりました。それから怪我が治るまで家にいれ、面倒を見てやりました。
幸い怪我は軽く、一週間ほどすると元気に跳ね回ることができるようになりました。その頃には男とうさぎはすっかり仲良くなり、男の後をうさぎが追いかけてゆくほどでありました。

うさぎの怪我が治っても、うさぎを家においておきたいと男は思いましたが、やはり野生動物は森へ帰すべきだと考え直し、うさぎを抱いて庭へ出ました。
うさぎをきれいに整った芝の上に置くと、ふいに悲しさがこみ上げてきました。うさぎがそのつぶらな瞳で見上げる中、男はポロポロと大粒の涙をこぼしました。

「うさぎ、森に帰っていいんだぞ。そんな目でオレを見るなよ。・・・あぁ、何でオレは泣いてんだろうな。」

いくら男が問いかけても、話せぬうさぎは答える事ができません。じっと男を見ています。
鳥が鳴き、木々や花々が風にゆれ、心地よい音を立てました。
しばらくして、男は泣きながら微笑みました。それは、答えを見つけた喜びの笑みでありました。

「そっか・・・。オレは寂しかったんだ、一人になるのが。うさぎと過ごした毎日は楽しかった。オレはうさぎが好きだったんだよ。」

男がそう言ったとたん、うさぎはみるみるうちに黒い髪、黒い瞳、透き通るような白い肌に白い衣をまとった美しい女性へと変わりました。そして、驚いて目を白黒させて座り込んでいる男に手をさしのべました。

「私は悪い魔法使いに呪いをかけられ、うさぎとなっていました。その呪いは、私の事を心から必要としてくれている人に『好きだ』と言われないと、解くことができなかったのです。本当にありがとうございました。感謝しています。」

女性がにこりと微笑むと、男は女性の手を取り、立ち上がりました。そして、泣いて少し赤らんだ顔ではにかむように、にこりと笑いました。

「こちらこそ、ありがとう。・・・これからもよろしく。」

優しい皮肉屋の男と美しい黒髪の女性は、それから末永く幸せに暮らしました。


おしまい
作品名:うさぎ 作家名:音梨音色