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(コミティア94新刊見本)You have my word.

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「記憶はまだ戻っていなくても。それでも君の魂は俺を覚えていてくれてるんだな」
 そういって、あなたは穏やかに――それでいてどこか寂しそうに――「ありがとう」と笑った。


 魔術の塔。
 世界にはそう呼ばれる塔が四つ存在した。その塔には名前の通り、世界中から魔術師たちが集い、生活していた。
 魔術師――それは精霊たちの力を借り受け、世界を包む神秘の理に挑むものたちの呼び名。
 彼らは天気を占って豊穣を祈る呪いをなし、火や水を操りもした。
 魔術師としての力を持たないものたちにとって、魔術師の存在はとてもありがたく――

 そして恐ろしかった。


 四つある魔術の塔のうちの一つ。大陸の東にある塔で生活をしている少女、アイン。彼女は書物を探して膨大な蔵書を誇る図書室に足を踏み入れた。
 いくつあるのか数えたことのない、たくさんの背の高い棚。その間の通路を足早かつ静かに歩く。彼女の視線よりもだいぶ高い位置にある分類表を時折見上げ、自分の求めるものがありそうな棚を探す。
 棚に目星をつければ、今度は一冊一冊の背表紙を見ていく。一番下から順番に。
 自分の視線の高さまで見ても目的のものは見つからず、アインは失望混じりのため息をこぼした。
 小柄な彼女にとって、自分よりも背の高い位置の書架のほうが圧倒的に多いのだ。ゆえに必要とはいえ作業が一気に面倒に感じる。
「風の精霊よ――」
 小声で浮遊の術を唱えた。
 魔術師にとって貴重な書物を集めている図書室では、浮遊の術以外の魔術は禁じられている。
 それは書物を燃やしかねない火炎系の術を使わせないためであり、書物の中にある危険な術を安易に実行させないためである。
 そのため、図書室には複雑な結界が張られている。炎の精霊はこの結界を越えられないし、危険な術が載っている本が持ち出されれば、その事実は塔に住まう「弟子持ち」と呼ばれる魔術師たち全員に伝わる。
 しかし本を収める棚は少しばかり理に手を加えていて、一般的なそれよりだいぶ背が高い。そのため、本を探すために浮遊の術の行使だけは許されている。
「……」
 緑の目が背表紙の文字を一つ一つ見ていく。どれくらい探しただろうか。ようやく目的の本を見つけた。
 蔵書数が何千冊に上っているのかは知らないが、その中から目的の本を探すという作業。それは精霊たちの力を借りられない分、砂漠に落ちた指輪を探すよりも難しい。
 アインの小さな手が本に伸びる。
 ところが、突然現れた大きな手が少女よりも先に本を取りだしてしまった。
「――!!」
 どうやら本を探すことに集中しすぎて周囲への注意が散漫になっていたらしい。
 飛び出しかけた舌打ちを飲み込み、アインは首を巡らせた。
 最初に視界を占めたのは浮遊の術の影響で空気をはらみ広がっている己の灰色のローブ。次に顔見知りの男の顔。
 非常に性質の悪い顔で笑っている。