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顔 上巻

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 ⑤初日 #2


期待をしても、されていない取調べは、ほぼ無言のまま午前中を終了した。
大川は、一之瀬の鼻の頭の小さな傷を見ているだけだった。
拘置所の食堂のメシを喰い、大川と小山は再び取調室に戻った。
今日も一之瀬は食事をたいらげた、らしい。
再び長い沈黙の時間がつづいた。
鉄格子のはまった窓に、冬の陽は、オレンジ色の光を傾けた。

「逃げるって云うのは、結構大変なんだよ。」
ボソッと話し始めた一之瀬の声は、低く疲れていた。
返答を期待もしていなかった二人の刑事は、かえって当惑した。
マジックミラー越しの中井は、思わぬ事態にガッツポーズを出した。
その第一声のニュースは湯河原に即座に伝えられ、
捜査陣は“会議”を終了し、大急ぎで本部に戻った。

「随分、長い間、逃げていたものなぁ。何処にいたんだい?」
大川は、出来る限り暖かい声色を使って、接するように心掛けた。
「質問が・・違うなぁ」
一之瀬は訝って見せた。
「どうやって逃げていたか、だろ?」
一之瀬は、得意気に、自信満々に提案した。

こういう輩は、意外に多いもので。
愉快犯とか自己顕示欲の強いヤツはこういう手に走る。
そういう場合は。掛かった魚に糸をくれてやれ。
喋り疲れるまで喋らせておけ。
大川は駆け出しの頃、習ったまま、相槌を入れるだけに留めようと思った。
作品名:顔 上巻 作家名:平岩隆