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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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夜桜お蝶~艶劇乱舞~

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七之章


 お紺から狐火が三発も放たれた。
 どうにかお蝶は躱すも、続けざまに三発の狐火が宙を焦がす。
 狐火を放ちながらお紺はお蝶との距離を縮めていた。
 鋭く伸びたお紺の爪が妖しく光る。
 お蝶は妖糸を放った。
 妖糸を躱しながらお紺は長い爪を振り下ろす。
 桜柄の着物に一本の線が奔り破けた。
 あと一刹那、お蝶が飛び退くのが遅ければ、線は三本、はたまた五本、胸を抉られていたかもしれない。
 危機一髪を乗り越えても、お蝶は汗一つ掻いていない。激しい運動を重ねているにも関わらず、やはり汗は掻いていない。やはり、お蝶は人間ではないのか?
 お蝶に攻撃を躱されたお紺はそのまま地を駆け、正座をする黒子に飛び掛っていた。
 慌てて黒子は横の地面に飛び込んだ。
 地面に肩肘から落ちた黒子は立ち上がろうとしたが、そこへ再びお紺が襲い掛かる。
 だが、それはお紺の目の前を抜けた輝線によって防がれた。
「あたいが相手だよ!」
 叫ぶお蝶。
 その隙に黒子は立ち上がり、乱れた息を整えた。
 ひと言も発することなく、影のようにお蝶に寄り添う黒子。生きておるか死んでいるか、それすら怪しい黒子が、深い呼吸をしながら息を整えている。
 お紺は黒子を見ながらお蝶に話しかける。
「あんたの連れは、あんたほど俊敏じゃなさそうだねえ」
「相手はあたいだよ、連れに手を出さないで貰おうじゃないか!」
「生憎、正々堂々なんて言葉は持ち合わせてなくてね。黒子はあんたの足手まとい、弁慶の泣き所と言ったところかねえ」
 黒子は打ちつけた肘をだらりと地面に垂らし、もう片方の腕は腰でも打ったのか、背に回している。
 お蝶は三点を見ていた。黒子、お紺とその近くにある柿渋色の葛籠。問題は葛籠がお紺のすぐ傍にあることだ。
 葛籠を見ているお蝶の視線に気付かれた。お紺は葛籠に目をやった。
「この葛籠がどうかしたかい?」
「いえ、ただの商売道具が入っておりやすだけで」
 その言葉を信じず勘ぐるのは当然だろう。
 葛籠に手を掛けようとするお紺をお蝶が止める。
「ちょいとお待ちを!」
「この中になにが隠され……て!?」
 葛籠は中から開き、人の膝丈ほどの影が飛び出した。
 輝線が流れた。
 紺が裂かれ朱が噴出す。
 腕を斬られたお紺が顔を醜悪に歪ませながら怯んだ。
 葛籠の前に立つ小柄な影。