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秋月あきら(秋月瑛)
秋月あきら(秋月瑛)
novelistID. 2039
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夜桜お蝶~艶劇乱舞~

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序章


 代官所にまつわる黒い噂は、女郎仲間の間では周知の事柄だった。
 あそこに行って帰ってこない者がいる。
 ただし?あそこ?が代官所だという断定はできない。
 元締めは、逃げた、急死した、借金を返し終えたから村に返したなど、それらしい理由を話す。代官所や代官という語句はまったくでない。
 では、なぜ女郎仲間の間で代官所の噂が立つのか?
 その晩、お千佳はどこに行くとも聞かされず、強引に連れてこられた場所が代官屋敷だった。
 これまで幾度か料亭に呼ばれ、代官の相手をしたことがあった。
 しかし、この場所に呼ばれたのは初めてだ。
 消えた女郎たちは皆、代官に目を掛けられていた者ばかりであった。お千佳も同じ道を辿っていると気付き、怯える日々を過していたところに、この場所になにも聞かされず連れてこられたのだ。
 廊下を歩くお千佳は首元がむず痒くなって、指先で軽く押さえた。その場所には小さな痣がある。代官の吸うような接吻で付いた痕だ。
 前を歩いていた紺色に着物が足を止め、面長な顔を振り向かせ切れ長の目でお千佳を睨んだ。
「奥の部屋でお代官様がお待ちだよ、粗相のないようにね」
 元締めの言葉には逆らえない。
 故郷で暮らしている母と妹の幸せな顔が浮かぶ。きっと故郷に残してきた二人は幸せに暮らしている。そう思えばこそだ。
 襖の奥は静かだった。今日は代官ひとりしかいないのだろうか?
 ひとつ息を飲んでから、襖をゆっくりと開けた。
 座敷ではすでに代官が酒を嗜んでいた。
 干からびた枯れ木みたいな、とても痩せこけた顔がお千佳を見た。
「近う寄れ、晩酌を頼む」
 声まで枯れたしわがれ声だ。
 歳も相当と聞くが、それでも痩せた代官は、毎晩のように酒を浴びるように飲み、若い女を貪るように抱く。あの枯れた躰のどこに、そんな体力と性欲が潜んでいるのか?
 お千佳が代官の横に座ると、枝先みたいな指が腰を這った。
 構わずお千佳は杯に酒を注ごうとしていると、突然に代官が覆いかぶさってきた。
「お代官様!」
 思わずお千佳は声をあげた。
 いつもと雰囲気が違う。
 ぎらつく代官の眼は狂気を湛え、黄色い歯を剥き出しにして笑っている。
 恐ろしくなったお千代は着物を乱して逃げた。だが、足首を掴まれ、襖を倒しながら大きく転倒してしまった。
 真っ暗な奥座敷には布団が一式敷いてあった。