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赤い瞳で悪魔は笑う(仮題) ep2.姉妹

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 いつのまにか四人の手は止まっていて。会話に、花が咲いていた。大黒の望んだとおりになったわけだ。ただし、その会話に興じているのは主に、島と大黒の二人のみであったが。往々にして、俺と咲屋は聞き手に回っていた。
「それでさあ、あの先生がね――」
「そうかー、確かにあいつは――」
「だよねー。やっぱりそう思うよね?」
「うんうん」
「でも、あの子は――」
「ん? ああ、あいつなー……そうだな」
「違ったかな?」
「いや、どうだろうなあ」
 まったく、何に関してそんなに盛り上がっているのだろう。
 一つ、訂正しておこう――俺と咲屋は確かに聞き手だったが……、俺一人に関して言えば、二人の会話など全く聞いていなかった。
 苦手だった。この二人のように――……『すでにそれだけで完結してしまっている』存在というモノは。
 二人の中だけで会話が始まり。
 二人の中だけで会話が成立し。
 二人の中だけで会話が終了する。
 他からの干渉を、一切必要としていない、
 閉ざされた円の中にいるような、
 誰にも手の届かない、それだけの世界。
 俺の相槌など。
 咲屋の、呟きにも似た意見など。
 二人の前では意味を成さない。――……それだけで、もうすでに、終わってしまっているから。
 自己完結に近い。
 他を一切必要としないというコトは。
 他から一切必要とされていないというコト。
 そして、それを自ら良しとしているコト。
 ……苦手だった。どうしても。
 何故かなんてことは分からない。とにかく、俺はソレらが苦手だった。咲屋があの二人のことをどう思っていたかは知らないが、俺は、『そういう』あの二人は苦手だった。
 だから。
 聞き役に徹し――
 話に関わらず――
 聞くコトを放棄して――
 ただ、教科書を、眺めていた。
 だから。
 どういう話の運びでそういう話題に行き着いたのかは、俺には全く分からない。ただ、島が――……冗談交じりに。
『あいつ、本当ぶっ殺してやりたいよな』
 と。
 言った、らしいことは分かった。耳の中に、残響が反射する。
 そして、その一言に……咲屋が。今までずっと黙って、会話を聞いていた、咲屋が。
 反応した。
「…………や……」
 震えながら。自分の身体を抱きしめるように、震えながら。
「……どうした? 咲」
 屋、と続けようとした島の言葉は、咲屋の叫びにかき消される。
「やめて! 『殺したい』、なんて――そんな言葉、言わないで……!」
「…………っ?」
「ぇ…………咲……屋?」
 島も大黒も、そして多分俺も――ぽかんとした顔で、咲屋を見つめる。
「駄目なんだよ……人を殺すなんて、冗談でも……駄目なのに……絶対……!」
 大黒は咲屋が何を言っているのかと、言葉も出ない様子だ。俺も、咲屋が何にそんなに『怯えて』いるのか分からず、何も出来ずに、ただ咲屋を見つめる。ただ、島だけが、咲屋を安心させようと、声を掛ける。
「おい……、さく、や?」
「ダメなの、ダメなの、駄目なの、駄目なの、だめなの、だめなの、だめなの、だめなの、だめなの、だめなのっ……!」
「……お、おい……!」
 咲屋はテーブルに肘を突き、腕で自分の頭を抱えて、いやいやをするように首を振り、うわ言のように繰り返す。
「殺すなんて――だめなのだめなのだめなのだめなの、……」
「咲屋……咲屋!」
「言わないで、言わないで、殺さないで、殺さないで、殺さないで――……」
「……おいっ……、咲屋!」
 島が、たまりかねたかのように身を乗り出して、テーブル越しに、咲屋の腕に軽く触れた。
 その途端。
「嫌あぁっ!」
 その腕を、振り払って。島が、咲屋を落ち着かせるために差出した、彼の善意を、振り払って。
 咲屋ははじかれたように立ち上がり、床にくず折れ、虚ろな目で呟き続ける。
「嫌、嫌だ、殺さないで、殺すなんて言わないで、お願い……!」
 そうして――。
 勉強会は中止と、相成ったのだった。