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留守番電話を再生します

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「はい。小谷です。ただいま留守にしております。御用のある方は、ピーっという音の後にメッセージをお願いします。よろしくどうぞ。」

ピーっ


「あ、もしもし、佳代?おれおれ。あ、おれおれ詐欺とかじゃないぞ。おれ。和樹。
えーと、だな。今日は、めでたく志望校に合格した佳代に、メッセージを送るので、心して聞くように。
まず、一つ目。大学生になったからといって、むやみにお酒を飲まないこと。おまえは忘れてるだろうけど、小学生んとき、ジュースと間違えてチューハイ飲んで、病院騒ぎになったんだからな。あのときはホントに大変だったんだぞ。おまえ、酔って笑いだしたかと思ったら急にゲロするわ熱出して倒れこむわ。
幼馴染で腐れ縁のおれがこんなに言うんだから、大学でのできたての友だちの前で同じことやってみろ。2度と外をまともに歩けなくなるぞ。
いいな、お酒は20歳になってから。
次、2つ目。一人暮らしするんだから、自炊はちゃんとしろよ。おまえは昔から偏食だったけど、とうとうこの年まで治らなかったからなぁ。食堂使ってもいいから、1日3食ちゃんと食べろよ。放っておくと、おまえ、ご飯とふりかけだけで生きていこうとするだろ。野菜と肉と、それからニボシ。必ず毎日食べること。
おかしなダイエットなんかして親を泣かせんなよ。自炊ができないせいで餓死しました、なんてマジで笑えねーから。
それから3つ目。あんまり夜更かししないこと。せいぜい1時までには寝ろよ。受験シーズンのときのおまえ、いつぶっ倒れてもおかしくなかったからな。徹夜で勉強してでかいクマつくってんの、見てるこっちの身がもたねぇから。ホントに。
だいたいおまえは昔から無理しすぎるんだよ。人の頼みも、全部引き受けようとすんのもやめろよ。そーゆーのは自分に余裕ができたときだけでいいの。なにがなんでもやらなくちゃいけないこと、なんてそうそうないんだからさ。
おまえの無茶を止めるのがおれの仕事だったけど、これからはさ、それもできなくなるから。
ちゃんと自分の身は守れるようになれよ。

悪いな。本当は、ずっと一緒にいてやりたかったんだけどさ。いや、ごめん、うそ。
おれが、ずっと一緒にいたかった。
佳代と一緒の大学行ってさ、また昔みたいにテストの点数で張りあったり、帰り道に道草したり、捨て犬の飼い主を捜しに町中練り歩いたりしたかった。
たまにするケンカだって、実はおれ、けっこう楽しんでたんだよね。
だって、絶対にまた仲直りできる自信、あったし。そうじゃなきゃ、あんなに憎まれ口なんか叩かないっつーの。
喧嘩するほど仲がいいって言うじゃん。おれ、あの言葉は嘘じゃないと思うんだよね。
だって、どうでもいいと思ってる相手に、おまえがムキになるなるわけないもんな。佳代はけっこう、人にどう見られるか、とか気にするやつだし。まぁ、それはおれもなんだけど。
だって、人に嫌われるのって、怖いもんな。敵なんていないほうがいいに決まってる。
どんなときだって味方でいてくれるって確信がなくちゃ、わざわざ時間と体力を削って喧嘩なんかしたりしないよな。
少なくとも、おれはそう思ってる。だから、おまえと喧嘩できて、楽しかった。しばらく口きいてくれないのは、こたえるんだけどさ。
欲を言えば、もう一度くらい、喧嘩してみたかったな。
それから、自転車の二人乗り。あれもしてみたかったな。おれにもう少しバランス感覚があればよかったんだけど。
わざわざ遠出しなくてもさ、おれ、佳代といれば、それだけで楽しかったんだよな。今だから言うけど。
同じものを見て、違う感想を持って。ときどきおなじことを考える。そういうのが、すげー好きだった。
あ、佳代、今、笑ってない?ちぇ、ちゃんと聞けよ。おれがこんなに正直になることなんて、もうないぞ。
本音暴露ついでに、もうひとつ。
これからの佳代には輝かしい未来が待っています。正直、羨ましいです、はい。
憧れのキャンパスライフ。友達いっぱいつくって青春謳歌しちゃってください。
好きな職業について、どんどん自分に自信持っちゃってください。
泣いたあとには、ちゃんと笑えるように努力しましょう。笑う門には福がきます。絶対きます。
おれは笑ってる佳代が、一番好きです。
そして、最後に。
これから、佳代にはたくさんの出会いがあると思う。その中には、本気で好きになれる人も、多分含まれてると思う。
好きになったら、絶対、そいつとくっつけよ。他人に遠慮なんかすんなよ。
いいな。おれに遠慮なんかしたら許さないからな。絶交だぞ。
本当のことを言えば、佳代がおれの知らない男と楽しそうに笑ってたら、泣いちまいそうだけど、
でも、最後くらい、かっこつけてみたいんだ。
それくらいの嘘なら許されるよな。
そして、嘘じゃない事実を、ひとつ。
おれ、佳代のこと」

ピーっ
メッセージの再生が終わりました


ばか。留守番電話なんて3分しかもたないのよ。
一番大事なこと、言えてないじゃない。
ばか和樹。なんで生きてるうちに、言わないのよ。言い逃げなんて卑怯だよ。
膝が折れる。座り込む。喪服がしわになるだろうけど、立ちあがれそうにない。
和樹の葬式に行ってきた。遺体を前にしても泣かなかったのに、今になってどんどん涙があふれてくる。
だって、和樹の前ではかっこつけたかったから。泣き虫でいたくなかったから。
あんただけかっこつけようなんて、そういうの、あんまりじゃない。
だから、私は、受話器を上げる。番号は押さない。
「えー、こちら、佳代。メッセージ、たしかに受け取りました。
佳代から和樹へ。最後のメッセージです。心してきくように。
私は、あんたのことが好きでした。大好きでした。ずっと一緒にいたかったです。
だから、今、怒っています。めちゃめちゃ怒っています。涙声なのはそのせいです。
泣きやむめどはたちそうにありません。どうしてくれんのよ。
でも、もう少ししたら、ちゃんと泣きやむから。笑えないかもしれないけど、ちゃんと努力する。約束する。
だから、私の気持ち、忘れないで。
変にかっこつけたりしないで。
私のこれから、なんて遠慮したら許さないから、だから、
いつまでも、私のこと、好きでいて」

作品名:留守番電話を再生します 作家名:やしろ