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正夢をみていた

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夢を叶えた日


ぐすりぐすりと真っ赤な鼻をすすりあげる竜ヶ峰を、家に帰すわけにもいかず、とりあえず俺の家へと運んでみた。
抱き上げて運んでいたんだが、途中で我に返った竜ヶ峰が恥ずかしがって俺の腕から降りようとするひと悶着はあったが、竜ヶ峰は靴を履いておらず(当然俺も靴を探すことなんて思いつかなかった)結局諦めて大人しく運ばれる流れになった。
殺風景な俺の部屋に竜ヶ峰がいる。
なんだか非日常的な光景に、どうも落ち着かない気分になる。

「おい、牛乳でいいか?」
「へ・・・あ、はい!・・・・ありがとう、ございます」

まだ涙の跡の残る赤みを帯びた目じりを見ると、まだ腹の奥がムカつきでぐるぐると熱くなる。
それを両手でカップを持って、ふぅふぅと息を吹きかけながら温めた牛乳を一生懸命飲む姿を見ることで落ち着かせながら、俺は竜ヶ峰の隣に座った。
ソファは俺の大きさに合わせて買ったから、2人で座っても十分事足りる。

はふはふと牛乳を飲む竜ヶ峰には、怪我は一つもない。
じぃっと頭のてっぺんから足元までもう一度眺めてみるが、夢で見たような切り傷も・・そういうあとも、一切なかった。
それに心の底からホッとして、俺はようやく詰めていた息を吐き出した。

「・・・無事で、よかった」

そう呟くと竜ヶ峰の視線がこっちに向いたのがわかった。
だけど俺はそれを正面から受け止める余裕なんてない。俺は自分の出した言葉が、あまりにも真に迫った響きだったことに驚いたんだ。
そりゃ無事でよかったと思ってる。本気でそう思ってる。

誰にも竜ヶ峰を傷つけられたくない。
笑っていてほしくて、ありがとうと言ってくれる声が好きで、温かい笑顔が嬉しかった。
そんな気持ちを何て呼ぶのか、俺はもうすでに知っていた。

知っていたから、蓋をした。

俺の力は誰かを傷つけるものだ。それは俺が好意を持っていようと持っていなかろうと例外なく。
竜ヶ峰をこの力で助けられたのは幸いだったが、それも「あの夢」のおかげだ。それじゃなかったら、きっと助けには間に合わなかっただろうし、逆に助けるつもりで俺がこいつを傷つける可能性もあった。
だけど夢を見ていたから、どんな目に合うかわかっていたから、落ち着いて対処ができたんだ。

もし夢を見なくなったら?

俺はこの力で竜ヶ峰を助けるどころか、傷つけるだろう。
だから、俺は俺の気持ちに蓋をした。精一杯閉じて、決して開かないように。
そんな決意が、あのノミ蟲のせいで一気に粉砕されてしまったわけだが。

(竜ヶ峰が止めなかったら殺していた・・・それは嬉しいのか、殺しそこなったのは悔しいのか・・・いまいちわかんねぇな)

殺したい。
けれど、竜ヶ峰が止めたから、殺すことをやめることができた・・・つまり、制御できたということだ。
あれだけ激昂していたのに止めることができた、喜ぶべきか複雑だった。


「・・助けてくださって、本当にありがとうございました」

竜ヶ峰の声はもう震えていなかった。
カップを持ったまま丁寧に俺に頭を下げる。その動きを横目で見ながら、俺は「おぉ」とぶっきらぼうに返すことしかできない。
そんないつもと違う俺に不安になったのか、竜ヶ峰はカップをテーブルに置くと、俺に体ごと向き直った。

「静雄さん」

厳かに名前を呼ばれて仕方なく振り向けば、思っていた以上に真剣な瞳とかち合う。
切迫した雰囲気に俺は眉を寄せた。

「・・・なんだ?」

すると竜ヶ峰は、ガバリと勢いよく頭を下げた。
先程のものとは違って、完全な叩頭だった。もし場所がソファじゃなく床だったら土下座をするような姿勢にぎょっとする。

「すみません、でした」
「・・なんでお前が謝るんだよ。悪いのはあいつ・・・ノミ蟲野郎だ」
「・・・・いいえ、違うんです」

そう言って顔を上げた竜ヶ峰の顔は、笑顔の作り方に失敗したようなまるで泣き笑いの表情だった。
「違う」という言葉に、情けなくも俺は全力で動揺した。
俺に助けられたこいつが謝って礼を言うのはいつものことだ。それが違う?

(違うってどういうことだ?止められたくなったってことか?それってつまり・・・)

「俺は・・余計なことをしたのか?あいつが、ノミ蟲が・・・臨也が、よかった、って、ことか・・?」

吐き気がする。
あのまま捕まってたら、こいつは夢の通りになってたってことだ。
あんな風に切り裂かれて、なぶられて、犯される。それが現実になる?
ここでもし頷かれたら、俺は――竜ヶ峰を、殺すかもしれない。そう思ったところで、目を丸くしていた竜ヶ峰が慌てた様子で「違います!」と叫んだ。

「違う?違うって、やっぱそう・・・」
「そ、そうじゃないです!そうじゃなくて、その違うじゃなくて違うんです!あの、だから・・・っ!」

とりあえず落ち着け、そう言おうとした瞬間、竜ヶ峰のほうが先に声を発した。


「僕のせいなんです!!」
「・・・え?」

目を丸くする俺に、竜ヶ峰は泣きそうな顔で驚きの事実を告げた。
曰く――


「僕は、ずっと夢を見ていたんです・・・静雄さんに、助けてもらう夢を」

作品名:正夢をみていた 作家名:ジグ