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日向に降る雪

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日向に咲く桜


 私が駆け込んだのは、かの先輩の下宿先であった。寮住まいである彼の部屋に侵入するのは意外に容易だった。学生証を提示し、同研究室の後輩で忘れ物を取りに来たのだが鍵を忘れた、と言ったところでは追い返されたのだが、彼の部屋が1階にあったのが良かった。裏に回り窓を確認したところ、なんと鍵が開いていたのだ。無用心この上ないが、このような貧乏寮に忍び込む泥棒もいないだろうし、男の一人暮らしで防犯意識が薄いのも当然なのかもしれない。 
 私は自分の幸運に感謝しつつ、彼の部屋へと忍び込んだ。部屋は最後に掃除をしたのはいつなのかというくらい荒れていたが、目的のブツはすぐに発見できた。部屋のど真ん中にある机にぽつんと残されていたのだ。可愛そうに。早坂の愛する人はお留守番らしい。
「……早坂」
 私は急いで彼女をこの腕に抱きしめ、そう独り言ちた。すまない早坂。君の彼女は真っ二つになっている。しかし、一つだけ言わせてくれ。これは救出の際の負傷ではないのだ。
私が助けに入ったときには、既に彼女はもう……。憎き敵に陵辱され、見るも無残な姿へと変えられてしまったのだ! くっ、なんという悲劇か! 彼女の笑顔が痛い。これが心友の大事な人を守れなかった痛みか。私は何も、何もできなかったっ!!
作品名:日向に降る雪 作家名:彩月空