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里海いなみ
里海いなみ
novelistID. 18142
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人形

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5.昔々、そこには人形が住んでいた~繰り返す~


残された男から、軋んだ音が聞こえてくる。
嗚呼、自分ももう限界のようだ。
自身が人形であった事に気付いた男はただ冷静にそう思った。
自身が直し、そして壊した人形達。
彼女達と共に逝くならば構わないだろうか、そう考えるほどの余裕さえ彼にはあった。

ぎし、ぎし。

もう立っていることすら出来ない。
徐々に膝が折れ、男は完全に崩れ落ちた。
そして、静寂が辺りを包み込む。

……ぎし、ぎし…。

小さく、かすかな音が静寂を破った。
美しい髪の毛を波立たせ、セフィレールが腕の力のみで這いずる。
手を伸ばす先には先ほどの戦闘でカンタレラが弾き飛ばした男の黒い薔薇だった。
まるでセフィレールから迸る憎悪のように真っ黒く、全ての色を飲み込んでしまうような黒い薔薇。
それを手にした瞬間、初めてセフィレールの口元に小さな笑みが浮かんだ。
そして、力尽きる。





―…そして、どれ程の時が経っただろう。

「かわいそうな人形達」

…暗闇に小さな灯りが燈る。
一体何なのだろう、灯りに照らされたその場所には、無数の人形が散乱していた。
そのどれもが虚ろな瞳を見開いて関節をあらぬ方向に曲げて横たわっている。
嗚呼、一体ここは何なのだろう。
カツン、カツン、と音をたてながら小さな灯りが近付いてきた。
小さなシルエットの少女が立っていた。
肩よりも少し低い辺りまでだろうか、伸ばした髪はまるで闇夜のように暗く水を含んでいるかのように艶やかで。
その白い腕に持った蝋燭(ろうそく)を垂らさないように、慎重に腰を屈めた。
その視線、その腕の先には、五体の人形が横たわっていた。


人形:終幕
作品名:人形 作家名:里海いなみ