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西の国の王と神様に愛された娘

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アルジェレオという大きな大陸があり、そこでは野蛮な人間達が絶えず争っていました。神の国の一番偉い神様は、罪を犯した自分の娘である月の神に、アルジェレオを平和にするように命じました。
 月の神はシバという若い神を連れて空を泳ぐ銀の舟に乗り、アルジェレオに向かいました。
 大陸の丁度真ん中に降り立つと、舟は高くそびえる塔になりました。神様が来たことを知った人間達は、畏れをなして戦いを止め、神様を崇めることにしました。
 月の神は神の国で牢屋に入れられとても弱っていたので、かわりにシバがアルジェレオの人間達を世話してやりました。
 シバは四人のマシな人間を選んで王にし、それぞれに国を作らせました。そして今まで虐げられたものは貴く、虐げていた者は虐げられるように、世界のきまりをさだめなおしました。
 東の国の王は、花のように芳しい乙女。北の国の王は、心優しい紳士。南の国の王は太陽のように輝く女性でしたが、西の国の王は、鼻のひしゃげた醜い老人でした。
 老王はその見た目のほかは、何の欠けたところもない素晴らしい才能の持ち主でしたので、神様に選ばれたのです。
 彼は自分の容貌が人を不愉快な気分にさせることをよく知っていたので、切り立った崖ばかりで木が一本も生えていない険しい岩山のお城に一人で住み、けっして人前に出ようとはしませんでした。山の周りには深い森があり、森を抜けると広い湖が、そこを渡るには一そうの舟があるばかりで、そのほかに手段はありません。湖の向こうには街があって、西の国の人々はそこで暮らしています。その街は山と森と湖をすっかり取り囲んでいて、さらに街のぐるりにはドーナツ型の砦があって、王の家来や召使いや兵隊は、みんなそこで仕事をしているのでした。
 老王は優れた魔法使いでしたので、お城にいながら、遠くの家来に色々なことを命じることができました。それで、西の国はとても平穏に栄えていました。
 あるとき、小さな村の娘が、王様の姿を見たくて堪らなくなりました。両親は、王は化け物のように醜いから、お前は目にした途端に気を失ってしまうだろう、それは王様に失礼だからと言って止めましたが、娘はどうしても彼に会いに行くといってききません。
 両親は娘を説得しようとするうち、逆に、醜いといわれている王が本当はどんな姿をしているのか知りたくなってしまいました。しかし王に会いに行くには、湖と森と険しい山を通らなければなりませんし、今まで誰も、湖さえ渡ることができませんでした。というのも、舟はいつでも向こう岸にあって、街の人々は誰も舟の作り方を知らなかったのです。
 両親は娘に、どうしたら王様に会えるか、シバ様にきいておいで、と言いました。シバのいる聖域までは、七つの山と一つの川を越えなければなりませんでしたが、娘は魔女でしたから、ひとっとびに聖域の銀の塔に行くことができました。
 ところで娘は、月の神にとてもよく似ていました。それでシバは娘が愛しくなり、なんとか力になってやりたいと思いました。それで、老王の秘密と、お城にいく方法をすっかり教えてやりました。というのも、老王に山と森と湖を与えたのは、ほかならぬシバだったのです。
「湖のほとりに行ったら、あなたはまず服を全て脱いでしまって、水浴びをしなさい。すると雲が現れて雨を降らします。あなたはその雨を一粒だけ小瓶に受けなくてはいけません。すると虹ができて、向こう岸の舟が虹を渡ってやってきます。あなたは裸のまま舟に乗って漕いでいきなさい。岸についたらあなたはそのまま森を進むことができます。あの森に住む獣は、武装した人間はみんな殺してしまいますが、何も身につけていない者には傷一つつけないのです。ただそのときあなたは、小瓶を口の中に隠し一言も口を聞いてはいけません。何匹もの獣があなたにかたりかけてきますが、すべて無視しなければなりませんよ。森が終わったら、小瓶を口から出して、中の水を頭から振り掛けなさい、するとあなたは山をなんなく登っていけるでしょう。お城に入ったら、白い猫を探しなさい。他にも猫はたくさんいますが、真っ白い猫でなければあなたは王に会えないでしょう。猫はあなたを王の居場所に案内します。王は美しい青年の姿であなたを迎える筈ですが、それは私があの者にかけ
てやった魔法です。その魔法をとくことができたら、あなたは王の本当の姿を見ることができるでしょう。そうしたら王はあなたを妃にしたいと望むでしょう。あの老王は、他の王達と同じように、蝋が熔け出すことのない命の蝋燭を持っています。それに火が点っている間は、彼は何百年でも何千年でも生きることができます。もしあなたが王と一緒にいたいと願うなら、あの者が大事にしまっている蝋燭を見つけ出して、あなたの左手に火を移しなさい。あなたの左手は焼かれてなくなってしまいますが、そのほかの部分は王と同じように生きることができるのです。しかしもし王の蝋燭が消えてしまったら、王は死にますが、あなたは取り残されてしまいますよ」
 娘は言われたようにして山の麓までつくと、裸の身体に小瓶の雫を振り掛けました。次の瞬間、娘は白金の鎧を纏い、同じ色のたてがみを持つ馬にまたがっていました。馬は娘をお城まで運ぶと消えてしまい、鎧は立派なドレスに変わりました。
 お城はとても豪華でしたが、人の気配はなく、エントランスには、何匹もの猫が走り回っていました。娘が待っていると、猫達は走り疲れて眠ってしまいましたが、ただ白猫だけは起きていて、娘を誘うように歩き出しました。
 猫を追っていくと、螺旋階段があり、天辺まで続いています。娘は猫のあとに続いて登っていきました。
「俺の城を無断で歩くお前は誰だ」
 一番上の階には玉座があり、黒く輝くベルベットのマントに、濃青の鎧を纏う美しい青年が座っていました。彼が不機嫌そうに尋ねてきたので、娘は答えました。
「私はあなたの花嫁です」
「お前が俺の魔法を解いても同じことが言えるなら、妃にしてやってもいい」
 彼は面白そうに笑って言いました。
「では、魔法の解き方を教えてください」
「お前はそれを知っている筈だ」
 王はからかうように答えました。そこで賢い娘は、王の身につけているもので、一番美しいものを探しました。それはほかでもなく、彼の顔でした。娘は躊躇いもせず、ただひとつ消えなかった白金の剣で、青年の頭を切り落としました。
 するとシバの魔法が解けて、王が本当の姿をあらわしました。白髪で、眼はただれた皮膚に隠れ、高い鼻は骨ごと捻れ曲がり、口からは長い牙がむき出しで、顎には床に着くほど長い白髭がはえていました。背が曲がって、脚は短く、小柄で珍妙な体型に見えました。
 娘はそれでも、西の国を豊かに治めている老王が大好きでしたから、変わらぬ気持ちを伝えるため、彼にキスをしました。老王は娘の真心を知って、彼女との結婚を国中に知らせました。
 王はシバを呼んで、あの魔法をもう一度かけてもらい、山と森と湖を、人が行き来できるようにしました。そして人々の前に出て来て盛大な結婚式をあげ、それからはよく人前に出るようになりました。