小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
ツカノアラシ@万恒河沙
ツカノアラシ@万恒河沙
novelistID. 1469
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ぐらん・ぎにょーる

INDEX|18ページ/29ページ|

次のページ前のページ
 

さぁかすのはなし




さぁかす、さぁかす、さぁかす。さぁかすが、やってきた。眠れぬ満月の夜、突然私の家に押しかけてきた友人の黒い小悪魔に、切符が手に入ったのサーカスを見にいこうと誘われた。
満月の夜。私と私を苛む事が趣味と言う友人の黒い小悪魔、そして黒い小悪魔の執事と連れ立って夜の闇の中に出掛けていった。満月の夜。
友人が私を連れて行ったのは、白い壁、黒い瓦屋根の蔵だった。こんな所にサーカスがあるのだろうか。私は紛しんだ。普通、サーカスと言えばテントの中やどこかの会場の中でするものだろう。こんな、小さな蔵の中でサーカスが行われていると聞いて訝しがらないほうが異常である。しかし、この友人のような『変わっている』と言ってよい人物が実際に存在している事を考えれば、蔵の中にサーカスが存在してた方がまだましだし、ありえないことでもないように思われた。それくらい、この黒服の小悪魔はとんでもない存在なのである。本当に、タチが悪いといったらしょうがない。
満月の夜。
蔵の中にはさぁかす。蔵の中に入ると、そこは暗闇だった。薄闇の中に赤いベルベットの椅子が見える。それなのに、小悪魔は勝手知ったる他人の家のごとくすたすたと歩いていく。黒い小悪魔の先導で私たちが中央の席に着くと、前触れなくいきなりさぁかすが始まった。まるで、私達が席に座るのを待っていたかのようなタイミングだった。
カリガリ博士のような男が緞帳の奥から現れて、滔々とと口上を述べる、どうやら、この太ったペンギンのような男が、このサーカスの団長らしい。
私は、眠り男のツュザーレなりや。
この団長の話によれば、このサーカスは満月の夜にしか開かれない特別なものであるとのことである。特別?いったい何か特別なのだろうか。隣に座る小悪魔の押し殺したような小声の説明によると、このサーカスには、珍しいことに他のサーカスとは達って動物が一匹も出ないらしい。もしかすると、大道芸の寄り集まりみたいなものだろうか。私は首を傾げたまま訳が分からなかった。
口上を言いおえた団長が緞帳の裏に消えると、妙に怪しげな音楽が鳴りだし『奇々怪々魔術団』と染め抜かれた赤い幕がするすると上がる。
そして、出し物が始まった。
まず、初めに人体解剖の秘儀。舞台には、怪しげな医者の様な、いやマッドサイエンティストの方がしっくりくるような恰好した若い男がひとり。白衣に、右目を隠す黒い眼帯。男の助手を努める金欄緞子のチャイナドレスの美少女が、客席かひとりのどこかの令嬢風の美少女を連れてきて観客へご紹介。ひとしきりの拍手の後、男はいしい手術台に横たわらせる。途端に廻りだしましたは、円形の電動ノコギリ。
助手の少女が、『さあ、どうぞ』と言うかのように手術台に手を向けてにっこりと笑う。
どこか奇妙な光景。
厭な音を立てながら、廻る、廻るノコギリ。そして、花を添えるは絹を引き裂くような可愛らしい少女の悲鳴。
その惨劇の手術台の周りを、レースが沢山付いた可愛らしいピンクの服を着た少女、もとい少女の背丈の老女がいつのまにやらシルクハットの中の兎のように現れる。老女のレースが沢山たくさん付いたピンクのボンネットから延びた地肌の見える白髪を三つ編みがゆらゆらと動く。まるで、容貌だけが老女であるのかのような身軽な動きである。そして、老女はいやに可愛らしい中国娘の大きな人形を抱いて愛嬌を振りまく。どうやら、このサーカスでは同時に幾つもの出し物を行うらしい。老女がいやに子供っぽい仕種で跳ねるたびに、スカートの端から白いレースが付いたペチコートが見えた。可愛らしいような不気味な光景。
くるくるくる。くるくるくる。少女の扮装をした少女趣味の老女が踊る。
手術台では、絹を引き裂くような少女の悲鳴。ぐるぐる廻る、ノコギリ。絹を引き裂くような少女の悲鳴。
くるくるくる。くるくるくる。少女の扮装をした少女趣味の老女が踊る。
飛び跳ねる少女の扮装をした老女の向こう側には、あらぬ方向に鎚が曲がりくねっているアクロバットの男女。その男女の躯を長い脚で越えていく、竹馬男。
支離滅裂な光景。
絹を引き裂くような少女の悲鳴。
絹を引き裂くような少女の悲鳴。
手術台の上の少女は、バラバラにされ黒いスーツケースに秩序良く詰められてしまった。はい、種も仕掛けもご孝いません。若い男と金欄緞子の中国娘は手に手を取り、舞台の真ん中に進み出てにっこり笑ってお辞儀をする。どうやら、この魔術とやらは、少女をスーツケースに詰めて終わりらしい。随分、無責任な魔術である。一方、悲劇の少女は絶叫を上げると、幕がするすると下りてしまった。この後、少女がどうなってしまったのか私は知らない。
気がつくと、舞台の上には老女だけなってしまった。いつの間にやら、マッドサイエンティストな若い男も、金欄緞子の衣装の中国娘も、竹馬男をアクロバットをしていた男女も、そして手術台も幻だったかのように消えていた。
舞台の上には、少女の扮装をした少女趣味の老女がひとり残っている。
老女の嬌声と吠笑。彼女が子供っぽい仕種で、スカートの裾を持ち上げてお辞儀をするとするすると、再び何処からともなく血のように真っ赤な幕が降りてきた。
やんや、やんやの大喝采。
そして、さぁかすが終わってしまった。