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巡り廻ってまた会おう

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Previous life


 ――もうここまでだと思った。この道を選んだ時から、自分の命は長くないんだとわかっていた。それでも、給与は低くても平和な城に使えて、細く長く暮らして行こうと思っていた私の考えはいとも簡単に崩れ去っていった


『……何がどうして、こうなるのよ』
『マコト……』


 まるで御伽草子のような展開。なんの因果かは知らないが、戦場で私が再び再開したのは、修行時代に愛し合っていた彼だった。
 敵陣にいる彼の瞳が、遠目でもわかるくらいに見開かれてる。


『こんな所で会いたくなかったよ……』
『あぁ』


 思わず泣きそうな声になる。お互い顔を伏せたまま、少しずつ距離を縮めていく。仕事が仕事だ。今さら放棄する訳にもいかない。……止めたいなんて、初めて思った。


『殺す覚悟なんて、私にはない。だから―――殺して』
『な!?』
『他の人の手にかかるより、貴方に殺された方が良いもの。だから……』



 刀を彼の方へ投げ捨てる。彼に殺されるならそれでもいいかと思った。そう、他人に殺されるのなんて真っ平ごめんだ。だけど、彼は心底呆れたような表情を浮かべてため息をついた。少し懐かしい。


『待て、お前には生きるっつー選択指はないのか』


 生きるも何も、この状況じゃ無理だよ。そう告げれば彼は更にため息をつく。次の瞬間には私の体は地上から離れていた。抱えられていた、という方が正しいかもしれない。


『は!? ちょ、なにやってっ』
『うっせー。俺は殺すつもりも手放すつもりもねーよ』


 そういって彼は、昔見せていたような意地の悪い笑みを見せると一気に地を蹴った。















 くノ一が一人裏切ったという情報は瞬く間に城内に広まった。同時に相手の忍が裏切った事も広がっていた。


『とんだ、犯罪者に、なった、ものねっ!』
『今さら、だろ?』


 追ってを巻きながらの逃走。あれからすぐに降ろしてもらって、私も走っている。何日も休まずに走り続けたおかげで、差はつけられたはずだ。だが、自分の体の方もガタがきていた。息は上がってしまい呼吸は苦しいし、走る速度は落ちてきている。何より使いっぱなしの足がガクガク震え、"これ以上は無理だ"と悲鳴を上げながら訴えていた。
 でもそれは、隣で走っている彼も同じはずだ。涼しい顔をしているが辛いだろう。たとえ男と女の体力の差があろうとも。

 それに、今は深い森の中と状況は不利だ。足場は悪く、草や木の枝が何度も行く手を邪魔してくる。あげく、坂があったりと走って抜けるのには無理が有りすぎる。

 ……それでも彼と一緒ならなんとかなる気がした。



 シュッ、と何かが木の葉を巻き込み空を切る音が聞こえた。次の時にはもう、鋭い棒状の物が足元に突き刺さっている。……棒手裏剣か。
 思っていた以上に差はついていなかったらしい。追って居るのは、同じかそれ以上の忍だろう。くノ一はこんな攻撃得意としないし――あくまで推測に過ぎないが。
 チラリと彼を伺えは、大丈夫だと此方を向いて頷いてくれる。逃げ切らねばならない、強く思ったその時だった。追っ手の放った棒手裏剣の一つが自分の背中へと突き刺さった。


『っつ……!』
『マコト!』
『へい、き。とにかく、先に』
『断る』


 先に行って欲しいという願いは、言いきる前に否定されてしまった。変わりにまた私を横抱きにする。あまりにも優しい彼の行動に、自分が情けなくて泣けてくる。彼の腕の中から見える景色は、もう形が分かるほどで。お互い本当に限界だった事が分かる。


『置いていくのは却下だからな』
『……うん』
『ここで捨てられるなら、会った時にもう切り捨ててた。俺はお前と生きる、だからくだらない事は言うな!』
『……わかっ、た』


 景色が止まった。私の視界は何故か霧がかかったように霞んできている。おかしい、体が思うように動かない。どうやら私はもう駄目みたいだ。
 迫る追っ手の気配を感じとりながらも、私は静かに微笑む。


『あ、ここ』
『覚えてるか?』
『もちろん』

 目の前に見える、決して大きく無い湖。森の中にあるここは、修行時代にこっそりと遊びに来ていたものだ。あの頃と寸分変わらぬ姿を保ち続けている湖を見ると、私たちがどこまで変わってしまっているのかが分かる気がした。

『ここは、変わんないな』
『うん。凄い懐か、しい』
『な、俺とお前でここ見つけてさ。いきなりお前が湖の中に魚は居るって言い出して』
『捕ろうと、して落ちた、よね』
『俺巻き添えくらったし』
『ゴメンって』


 文句を言いながらも、楽しそうに笑う彼につられて、思わず笑みが浮かぶ。
 抱きしめられた腕からはほのかに彼の体温が伝わって来て、少しだけ安心する。


『海、行きたいな』
『え』


 頭がボーッとする。思考が定まらない。というか、なぜここで海。一生の内に行きたいと思ってたけど、無理なのはわかってる。
 元々海に縁のない場所で育ったのだ、実際に見たことなんて一度もない。二人で古い家屋から引っ張り出してきた書物の中に、記されていた海。食い付いたのは私だった。


『見るんだろ、魚』
『とびき、り……デカイのを、ね』
『くくっ、本当食い意地だけは立派で』
『うるさ、い』


 悪態をついている彼の顔が、とうとうクシャリと歪む。今の私ではそれをただ見つめているしかできなかった。四肢はもう動かない。体から熱が引いて行くのもわかる。残された時間は、もうあとわずかだ。


『なぁ――、』
『な、に?』


 ポタリ、と雫が私の頬へと落ちてくる。変だな、雨は降っていなかったはずなのに。



『来世、ってあると思うか?』


 あぁ、とうとう彼も悟ってしまったらしい。この雨は彼の涙か。それでも明るく、軽い感じに言うのはきっと意地。それでも泣かないで欲しいと思うのは我が侭なんだろうか。じわりと視界がボヤける、熱いものが頬を伝う。


『あると、いいな。ううん。あるよ』


 呼吸が浅くなって来た。視界が悪い。彼の顔が、見たいのに。


『じゃあ、来世でも俺たちは恋人だな』
『人間とは、限らない、のに』
『舐めるな。俺はお前がどんなでもわかる。見つけてやるさ、今度こそ離さない』
『そっかぁ、じゃあ安心だ』
『ああ』
『――、だいす、き』
『俺も』


 くたりと体から力が抜けていく。
 もう動けない……動か、ない。彼が必死に、泣きそうに顔を歪めて私の名前を呼んでくれてるのに、もう唇を動かす事も出来ない。
 いつかは来ると思ってた終わりは、悲しいほどあっけなくツラいものだった。


でも、君の『見つけてやるさ』を信じて待ってるから――



作品名:巡り廻ってまた会おう 作家名:ゆくま