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巡り廻ってまた会おう

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Presentiment



 ――最近、おかしな夢を見る。
 周りには木ばかりで、私は時代劇で見たことのあるような、良くわからない服を着ている。
 服には所々血が滲んでいて、私は地面に倒れている。そして誰かが私の手を後が付きそうなほど強く握って、何かを言っているのだ。
 必死に何かを伝えようとしている事も、泣きそうに顔を歪めている事もわかるのに、それが誰なのかがわからない。知らない人だからわからないんじゃない。霞が掛ったようにぼんやりしていてはっきりと認識出来ないのだ。
 誰だかわからないのに表情だけ分かるなんて、居心地が悪いなんてもんじゃない。ツラい。なんか無性にツラい。目を凝らしても見えないから仕方ないんだけど。
 私から何か言おうとしても、声を出すは愚か唇を動かす事も出来ない。……私にどうしろというのだ。

 彼(姿はわからないが多分そうだと思う)は彼で、何かを大声で叫んでいるのにテレビの音量を0にした時のように何も聞こえない。聞かなきゃいけないと思っても、そこで視界が暗転して、いつの間にか自分の部屋の天井を見ている。
そして、その夢の内容を「何か不思議な夢を見た」とだけしか覚えておらず、いつの間にか忘れているのだ。


それは16の誕生日を迎えた日から続いていた。














「……ん」


 携帯のアラーム音が聞こえてくる。真琴はまだ覚醒しきらない瞳で携帯へと手を伸ばす。アラームを止めて時刻を見てみれば、八時半という文字(実際は秒単位までわかるアナログ表示だ)が映し出されている。思わず携帯を閉じてみるが、それはただの現実逃避である


「遅刻」


 ベッドから飛び下りて、急いで制服へと手を伸ばす。慌てて着替え始めたものの、八時半にはもうSHRが始まるのだ。急いだ所でもう間に合わない。
 先にでるからな、という兄の苛立ったような焦ったような声が聞こえてくる。どうして起こしてくれなかったんだ、と思わなくもないが、ギリギリまで家に居た所を見ると多分何回も起こしてくれたんだろう。その時起きなかった私が悪い。

 中途半端な事になってしまっているYシャツのボタンを全部閉めながら、真琴は深く溜め息をついた。

 もう遅刻は決定してるのだから、ゆっくり支度をしてから行っても変わらないだろう。いっそサボってしまおうか。欠伸をしながら階段を一段一段下りて行く。起きたばかりの頭では、階段を一段下りるだけで相当の衝撃がくるらしい。下りるごとにガクンガクンと頭が大袈裟に揺れる。ちょっと楽しい





――――マコト、




「え……うぉあぁっ」


 不意に呼ばれたような気がして、体がビクリと跳ねた。それが悪かったのか、あと一段だったのに足を滑らして落ちた……というか転んだ。なんとまぁ可愛げのない悲鳴だこと。

「……サボるな、って神のお告げ?」

 生憎カミサマなんて者は信じてないんだけど。
 そんな事をわざわざ声に出して言ってから、リビングに入る。今、時間は八時五十分、一時限目にはどうせ間に合わない。
 テーブルの上に簡単だがしっかりと用意されている朝食をみつけ、通勤電車に揺られているだろう兄にこっそりと礼をした。起きない自分の分まで用意してくれるとは(多分出来てから何回か起こしにきたんだろうが)なんだか申し訳なく感じる。
 よし、明日からは早く起きよう、それで許してくれ、兄さん。

 食パンにジャムを塗りたくって一口。うん、甘すぎた。なんとなく目の前の目玉焼きをジャムパンの上に乗せてみる、そして一口。
 駄目だ。目玉焼きにジャムパンは駄目だ、ミスマッチ。しょっぱいんだか甘いんだかわかんない味が口の中を支配してくる。今日の冒険は失敗したらしい。
 なんとか口の中の大冒険を飲み込む。ちょっと涙目になってるところはスルーしてくれると有り難い。
 ほっと一息ついて、とりあえず飲み物を取りに行こうと立ち上がる。その拍子にテーブルに積まれていた雑誌やら新聞やらが落ちる。それはもう、盛大に。


「あーあ」


 とりあえず適当に積んどけばいいかと(それが同じ事を引き起こす事は知っているが)雑誌へと手を伸ばす。開いていた雑誌には料理が何やら、芸能人の恋愛が何やらと書いてあったが、興味の無い話題ほどつまらない物はない。
 早々に積み上げた雑誌たちの山は、微妙なバランスを保っていると思う。
 真琴は一人満足気にうなずくと、当初の目的を果たすべく、冷蔵庫へと向かった。

 お茶をコップに注いで戻って来てみれば、雑誌の山が雪崩を起こしていた。……なんだ、今日は厄日か。



――……二階まで繋がった大きな水槽(スイソウ)。


「水族館……の広告……?」


 載っていたその写真はその広告の煽り通り巨大な水槽を写し出していた



『見るんだろ、魚』
『とびき、り……デカイのを、ね』



 ふと誰かの会話が頭をよぎる。一瞬だった為に、記憶には残っていない。けど、とても懐かしく感じた。</br>
 水族館の開園時間は九時、もう開いている時間だ。なぜかどうしようもなく行きたい。上手く言えないけれど、行かないといけないような気もする。よし、行こう。この際学校はどうでもいいや。

 雑誌を閉じ、その辺へと積み上げる。その衝撃で、雑誌が本日三回目の雪崩を起こしたのは内緒である。



 目的である水族館は学校へ行く途中の駅の側にある。
 今まで、全くといっていい程に素通りしてきた駅に立っている事が、なんだか妙におかしかった。
 格好は多少着崩してはいるものの制服そのまま。この後直で学校いくつもりだから、カバンもスクールバック。
 学校に着いたらうるさい親友にグチグチ言われるんだろうなあ、とその姿がありありと浮かんでしまって少し凹む。が、あえて考えないようにする。あえてね。
 携帯に繋がれたヘッドフォンを耳に付けて、音漏れしない程度の音量を心がけながら音楽を流してみる。もちろん、中に入るまでは片方は外しておくけど。



「800円になります」
「………」
「200円のお返しです。ごゆっくりどうぞ」



 見事に受付のお姉さんに驚いたように見られたけど、それは当たり前だから気にしない。元々こんな時間に学生が来ること事態おかしいのだ。
 それよりも、入園料が高い事の方が問題だ。学生なんだからもっと手頃にするべきだ。100円玉を二枚ポケットに転がすと少し肩を落とす。800円っていうのは学生には痛い出費だ。そうじゃなくても、月末二週間前の学生はお金に気をつけるものなんだぞ。――まぁ、私だけかもしれないが。
 ため息を一つ落として、館内へと足を踏み入れる




『さかなぁ?……んなもんこんなちっせー湖に居るかよ』
『わかんないよ、水があるんだし』
『いやいや、無理だって。おい、落ちるぞっぅあ』


 懐かしい感覚と共に誰かの会話再び。何がスイッチになっているんだ。あ、水族館か。聞いたことはあるんだけど、思い出せない。ただ、この場所がどうしようもなく懐かしく、愛しい。その気持ちだけが沸々と胸の中に湧き出ていた。
作品名:巡り廻ってまた会おう 作家名:ゆくま