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ますら・お
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novelistID. 17790
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アオイホノオ―終末戦争―

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プロローグ「蒼き業火の後に……」



世界中に蒼い炎に包まれた小惑星の破片が落下してから一ヵ月後……



――― 何故、こんなことになったのだろうか

ぐるぐると回るこの視界の中でそう思った。額からは血が流れているのが分かる。
人々は我先にと逃げ出していくのが見える。辺りは阿鼻叫喚の地獄だ。“奴ら”は逃げ惑う人々を切り裂き、押しつぶすなど蛮行の極みと言うべき殺戮を繰り広げている。
この殺戮劇から逃げようと立ち上がろうとするが大きく弾き飛ばされ、アスファルトに打ち付けられた身体は動かない。朦朧とする意識の中で自分もああなるのかと思うと悔しくてたまらなかった。
「大丈夫か!?」
喧騒の中を掻き分けてこちらに進んでくる数人の警官。
中年の警官の一人が意識のはっきりとしない自分を抱え上げるともう一人の若い警官の背中に背負わせる。
これで助かると思った矢先。

「グウォオオオオ!!!」

後ろから咆哮が響いた。
“奴ら”はどうもこちらに狙いを定めたようだった。
「急げ、逃げるぞ!」
中年の警官はそう大きく叫ぶと若い警官は僕を落とさないように走り出す。
突然、辺りに立ち込める煙の中から自分たちの前へ黒い影が飛び出だしてきた。
飛び出してきたその影は巨大な体躯と三対の強靭な脚を持ち、その内の一対の前脚とでも言うべき脚には死神が持つような大きな鎌が付いている。
そして、そいつは顔らしき部位をこちらに向けた。
ナイフよりも長く太い牙を覗かせる大きな顎、そして紅色に揺らめく四つの目を持った異形の化け物、そう認識した瞬間だった。
「後ろからも来るぞ!!」


――― 一陣の風。

後ろを向くと一人の警官がその身を大きく切り裂かれ血を噴出しながら、内臓を撒き散らし倒れていくのが見えた。
警官の一人が奴らの鎌の餌食になったのだ。
隣にいた中年の警官がすぐさま拳銃を取り出し反撃するが大して効果は無い。
更に自分たちの周囲を取り囲もうと他の怪物たちもこちらにやってくる。
「ここまでか、助けられなくて済まない少年……」
拳銃を構えつつ逃げ道が無いのを確認しながら中年の警官は言う。額には汗が浮かんでいる。
「助けてくれようとしただけで嬉しいですよ、皆さんありがとうございます」
言葉に詰まりながらも礼を言う。
お別れの言葉を皆でちゃんと述べたかとでも言いたげにこちらを見ていた奴らの内の一体が動き出した。
一歩ずつこちらに向かってくる。睨めつける4つの目はこれから逝く僕たちに捧げる蝋燭のように爛々と燃えているかのようだ。


ゆっくりと一対の鎌が振り上げられる……


しかし、鎌はこちらに下りては来なかった。
代わりに聴こえてきたのは乾いた咆哮。
化け物はその身体を大きく砕かれながら吹き飛び、そのまま地面に叩きつけられ絶命する。
周りにいた他の化け物たちはそれを攻撃と認識して既に行動に移っていた。
更に何回かほど大きな音が響くとまた何体かの化け物が吹き飛んでいく。
『今のうちにこっちに来い!!』
次に拡声器を通したと思われる男の声が響く。
声が聴こえた方向にいたのは装甲を身に纏った黒い巨人達だった。その巨人の身長は2mを越えている。

『A.M.A.T.A(Artificial muscle adoption type armor)』

彼らの纏っている装甲服はそう呼ばれている。一般的な単語でパワードスーツなどとも呼ばれる。パワードスーツに仕込まれた人工筋肉から捻り出される圧倒的な運動能力を持った巨人達はそれに見合った巨大で強力な武器を持ち、戦場を駆け回っているという話だ。
このパワードスーツの登場により戦争の形は大きく変わったとも言われる。
その中のリーダーと思われる各部に赤いラインが引かれた巨人が指示を出す。他の巨人達はそれに従い凄まじいスピードで散開、攻撃態勢へ移行。まず、手を出したのは化け物達の方だった。前方に出ていた三人の巨人に化け物たちが襲い掛かる。
だが、巨人達は手にした大きな得物の狙いを定めると躊躇いも無く引き金を引いた。化け物たちが一匹、二匹と次々に葬られていく。生身の兵士が扱えない程強力な火器を持っているから当然とも言える。後方の他の巨人も手当たり次第に怪物を葬っていく。まるで今までの惨劇を抜けてきた自分達からしてみたら腹の奥底に溜まっていた怒りに等しい感情が噴き出しているかのような光景に悦びさえも覚える。
先ほどまでの人間側の殺戮劇とは打って変わって怪物側の殺戮劇が繰り広げられているのだ。
そして化け物たちの数が少なくなるのを見計らって警官は走り出す。
こちらに気づいた怪物の何匹かが向かってくるが展開している部隊の上でホバリングしていた輸送ヘリが機銃掃射。怪物はその身を穴あきチーズの様にして息絶える。
自分たちはその中を怪物や車、抉れたアスファルトなどの残骸を避けながら進んでいく。そのまま一番前に出ていた巨人達の間を通り抜け奥の赤ラインの巨人の元へ。
「お疲れ様です。後は私たちが引き受けますので任せてください」
警官は血や汗、埃にまみれた顔に安堵の表情を浮かべる。意識がハッキリとしてきた僕もふうと息を吐いた。
「坊やもあの中をよく頑張った。俺でも多分生きては帰れなかったな」
マジだからなと笑いながら言いつつ大きな機械の手が頭を優しく撫でる。程よく温まっている人工筋肉とそれを覆うラバーの感触と温度の組み合わせが心地良かった。
「一匹抜けたぞ!!」
叫び声が聴こえる。こっちに向かってくる血塗れの怪物。
武器を構えて狙うには既に距離が近い。それを察した赤ラインの巨人は武器を捨て、殴りかかるような形で右腕を突き出す。
今まさに怪物が巨人に噛み付こうと瞬間だった。

ブシュッ!!

装甲の各部に仕込まれていたらしい降下時の緊急ブースターを右腕だけ作動させたようだ。
強烈な炸裂音とともに衝撃をまともに食らった怪物は大きく吹き飛び地面に叩きつけられる。そこに他の巨人がありったけの弾を撃ち込む。
「今のはさすがに危なかったな」
冷却が終了し、開放されていた装甲がゆっくりと閉まっていく。
そして僕の顔を二つの青白いカメラアイが見る。
「必ず生き残れよ、坊や」
そう言うと赤いラインの巨人は右腕の調子を確認しながら、武器を取る。
「絶対に生き抜いて見せます!」
僕の中の決意が固まった瞬間だった。
大きな背中を僕に向けながら巨人は頷くと右手を強く握り、親指を突き上げる。
市民たちの回収用の輸送ヘリが地上にゆっくりと降りてくる。
「こちらへ、早くしないと空も危なくなります!!」
ヘリに乗っていた兵士はローターの羽音に負けないように大きな声を張り上げた。警官は早足で輸送機に乗り込むと僕を席に下ろして隣に座った。全員が搭乗すると輸送ヘリの扉がゆっくりと閉まっていく、その隙間から巨人達の部隊が戦っているのが見える。
先ほどよりも奴らの数が増えているのが確認できる。あれだけの数にとても抵抗できるようには見えない、しかし一対何十もの差でもこの場所を守っているのだ。彼らの手腕は本物なのだろう。
あの赤ラインの巨人がこっちを見た。その目は僕をしっかりと捉えている。頭を軽く動かし“行け”と合図を送る。


―――そして扉は閉じて、ヘリは飛び立った。


それから4年後……