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妖鬼譚

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漆章 惨劇 後篇


放課後、何時もならばテニス部の活動に積極的に参加している筈の謙也なのだが、今日はテニスに向かうという気持ちが全く起きなかった。
その代わりに彼の胸を支配していたのは、抑え切れない程の不安、心配、それらから来る焦燥感。
一刻も早く家に帰りたいと、レギュラーに割り当てられた最低限の練習メニューをおざなりにこなすと、静かにコートから離れようとした謙也だったが。

「謙也さん」
「ッッ!!!?」
「何処行きはるんですか、アンタ?」

この前、俺にサボるな、練習参加しろ言うたんは、アンタでしょうが、と呆れた声を謙也の背中に掛けたのは、勿論光だった。
仕方なく振り向いた謙也は、必死の形相でこの後輩に頭を下げた。

「財前、頼む、今日だけは見逃してや!!俺、どうしても家に帰りたいねん!!」
「……そないにアンタが焦っとる理由は、昨日の夢、ですか?」

ずばりと自分の胸騒ぎの原因を言い当てられた謙也は、暗い顔でゆっくりと首を一つ縦に振る。

「おん……あれは夢やって分かっとる筈なんに、今日一日ずっと家族ん事が心配で心配でたまらんのや」
「……分かりましたわ。もしそないな事が起こってるとしたら、それは十中八九鬼門の仕業です。せやから、俺も一緒に謙也さんの家に行きますわ」
「いや、お前はちゃんと部活出なあかんて」
「元々俺はアンタの監視兼護衛が役目なんやから、その対象が居らんと意味無いんですわ。なんで、嫌や言うても付いて行きます」
「せやけど……」

と、昨夜の『夢』の中で光も何者かの手で殺されていた事を思い、同行を拒否しようとする謙也。
しかし、光はその不安を無視するように、さっさとユニフォームから制服に着替えに行ってしまう。
敢えて何も言わずに自分に付き合ってくれる光に感謝しつつ、謙也はその姿を追い掛けた。


*****


学校から謙也の家迄は学校から駅迄5分、電車で15分、そして更にそこから家迄徒歩10分という電車通学の割には比較的近い場所にある。
その最寄り駅から家迄の通い慣れた道を二人で並んで走る謙也と光。
早く早くと急く気持ちで、何時も以上の速度で駆け抜けていると、その視界の端に蠢いていた影が突如として二人の進路を遮って来た。

「う、わぁぁっ!?」
「鬼門……」

目の前に立ち塞がる巨大な異形は、何度観ても慣れる事のない鬼。
今迄謙也が観た物と異なり、その赤銅色の肌をした鬼門の腕から爪に掛けて薄い白藍の光を放っている。それを見て取った光は、チッ、と舌打ちをする。

「甲型か、面倒やな……」
「何やねん、その『こうがた』言うんは……?」
「簡単に言うと、術を使える何時もの奴らよりは多少知恵の回る奴って事っすわ」

と、謙也を背後に庇う様にして刀を抜いた光は、涎を垂らして舌なめずりをする鬼門について簡単に説明をする。

「だ、大丈夫なん?」
「甲型程度やったら別に何匹でも問題ないっすわ」

そんな軽口を叩く光だが、それは守る対象が居ない場合だ。今のように足手纏いがいては、全力で戦うというのは不可能である。と、そこへ。

「さ、三匹目ッ!?」

まさかの新手の姿に謙也がヒィ、と恐怖の声を上げた。さっと、周囲を見た光は、小さく震えている謙也を正気に返らせる様に鋭く声を掛けた。

「謙也さん、アンタは先に行って下さい」
「で、でも……」
「アンタに此処に居られる方が足手纏いになるんです。俺がこの場でこいつらを倒したら、すぐに後を追いますから」

一人で、光を残すなんてそんな真似は出来ない。だが、確かに自分が此処にいても出来る事は無い。ならば、今の自分がするべき事は、彼の言葉を信じてこの場をすみやかに離脱する事だ。
そう悟った謙也は、『無理はせんでな』とだけ言うと、自慢の足を使って全速力でこの場を後にする。
Kの姿が小さくなっていくのを確認した光は、それを追いかけようとする鬼門を妨害するように、懐から墨で複雑な文様の描かれた短冊の様な紙を四枚程取り出すと、それを四方に向けて放つ。
周囲の地面に張り付いた札は、周囲の空間からこの一角だけを完全に切り取る強固な結界を作り出した。
ガンと術で作られた壁に頭からぶつかった鬼門は、それを作り出した光を濁った卵色の眼で睨み付ける。それを怒りに染まった漆黒の瞳が睨み返す。

「ホンマ、俺を無視して迄人を、謙也さんを喰らおうだなんて、よう考えられるな……全部纏めて叩き斬ったるわ!!」

そう吼えた光は愛刀を構え直すと、異形に向かって突撃して行った。

作品名:妖鬼譚 作家名:まさき