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ひまつ部①

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「ちょっと、うちのロリに何か用? それに急に入ってきて決闘だのなんだの… 面白そうね」
「ティアぁぁぁぁ! せっかくまともなことを言うのかと思って黙っていたのに、全然できてねぇじゃねーか!」
少しでも期待した俺がバカだったんだ。そう、俺が悪いんだ。そう思わないとやっていけねぇよ。

「キミ、いきなり入ってきて物騒なこと言うのは不良がやることだよ? 用事があるならちゃんと伝えなきゃだよ」
「そうよ。それにロリはサッカーボールじゃないわよ!」
「だぁぁ! ティアはもう黙ってろ! お前全然話し聞いてねーな!」
久々にまともな陽向を見た気がする。そして言うことはごもっともである。
そして一向に話聞こうとしないティア。コイツが部長で本当にいいのか? この部活大丈夫なのか?

「うるさい! 今日の昼休みにロリがサッカーボールをぶつけてきたんだ! おかげで保険室に運ばれて、鼻血でて散々だったんだからな! 俺はゆるさねぇぞ!」
何やら訳ありのようだな。ただし、話をしっかりと聞き出す必要がありそうだが。

「陽向、麦茶を用意してくれ。あと適当に菓子も頼む」
「あいさぁッ☆」
身をひるがえし棚からお菓子をいくつか籠へ盛る。合わせてふりふりと動くメイド服が何とも微笑ましい。

「とりあえずさ、ここ座って。兄ちゃんが話聞いてやるからちゃんとどういうことか教えてくれ」
「お、おぅ」
大きなテーブルに冷たい麦茶と茶菓子が並べられる。
意外なもてなしだったのか威勢の良かった少年は少し落ち着いたようだ。

「とりあえず君の名前を教えてくれないかな? 俺は御影蒼空だ」
「一之葉(いちのは)このた だ!」
屈託のない笑顔で答えるこのた。なんか元気あふれる少年、といった感じだ。

「で、ロリと何があったんだ?」
「だから! 昼休みにみんなでサッカーして遊んでたんだよ。そしたらアイツがボールを蹴って、思い切り顔面にぶつかってだな! 鼻血がどばーって出て保険室で寝てたんだぞ!」
必至に説明するこのただが、その両手には麦茶と茶菓子が握られている。文句を言いに来たのかが怪しく思える光景だ。

「ロリ、本当なのか?」
「うっ… でも、ロリは転がってきたボールを蹴り返してくれと言われたから蹴り返したまでだ! その後のことは知らんぞ!」
ロリも茶菓子と俺を交互に見つめながら必至に訴えてくる。うむ、伝わったぞお前の気持ち。
でも茶菓子はやらん。話が終わってからだ。

「なぁこのた。ロリはこう言ってるんだがどうだ?」
くっ と言わんばかりにロリを見つめるこのた。と、思いきやすぐに視線を逸らしてしまう。
俺は気がつくのが遅かった。こいつら全員コスプレしていることを。

「ロ、ロリ。このたが目のやり場に困っている。とりあえずなんでもいいから上に何か羽織れ」
「ふはははははっ 蒼空もようやくロリの美貌とエロスに気がついたか! さぁ、見るだけなら許してやろう! 今日だけじゃ!」
全く会話の通じないロリにどこかの誰かと姿が重なった。終わりの見えそうにない脱力感に恐怖すら覚えそうだ。

「ロリ、今は蒼空が正しいよ」
言葉少なくロリの制服を羽織らせる春樹。ナイスだ!
若干言葉に引っ掛かるものを感じたが、そこは目をつむっておこう。
俺は寛大な心を持った大人になるんだ。

「と、とりあえず今日のところはおやつをごちそうになったしこれで勘弁してやる! でもいつか決着をつけるからな!」
そう吐き捨てるように部室を駆けだしていくこのた。

「…あいつは何をしに来たんだよ」
このたが去った部室は何とも言えない空気に包みこまれた。
それから程なくして再び部室のドアが開かれる。
そこにはこのたが立っていた。先程とは微妙に雰囲気が違っている。鼻には絆創膏を貼り頬が少し晴れていた。

「あ、あの… ロリちゃん。お昼休みのサッカーボールのことは気にしなくていいからね」
先程とは間逆の発言に俺達は困惑した。

「ど、どういうことだ? さっきは絶対に許さんとか言っていたお前が? どういうことじゃ?」
「え? 僕は初めてここに来たんだよ。それまでずっと保険室にいたし…」
なぜかもじもじしながら心細そうに口を開くこのた。

「なぁ、この短時間で怪我でもしたのか? さっき絆創膏してなかっただろ?」
「ふぇ?」
目をぱちくりとするこのた。全く何のことかわからない、といった表情だ。
そしてけたたましい音と共に部室のドアが乱暴に開けられる。

「ななたー! お前寝てなきゃダメだろ!」
「「このたが2人いるー!」」
そこにはもう一人このたがいた。

「へぇ、アタシ双子なんて初めて見たわー。ほんとそっくりね」
「や、やめろよっ」
ティアは2人の頭をわしゃわしゃさわりながら何度も顔を眺めている。
抵抗するのは弟このた。抵抗せずにぼーっとしているのが兄ななた。
弟の方がやんちゃで元気な男の子といった感じだ。若干目もつり目である。
それに対し兄ななたはたれ目のおっとりさん、といったところか。

「つまりはロリが蹴ったサッカーボールは兄のななたにぶつかったってわけか。んで弟のこのたは昼飯食い過ぎてトイレにこもってたから詳しい状況がわからなかったと。だから、ボールのぶつかったことしかしゃべって無かったわけか」
「おぅ! 兄ちゃん頭いいな!」
「ご迷惑おかけしてすいません」
なんとも対象的な兄弟である。まぁ、この年代の男の子は元気がないとな。

「はい、ななたくん」
「あ、いいな! 俺も俺も!」
陽向がお茶菓子をななたに渡す。
その茶菓子を見てこのたが頻りにうらやましがる。

「このたくんはさっき持って行ったでしょう? ななたくんはまだ食べてないからね。一人だけもらうのはずるいでしょ?」
「…そ、そうだな。俺、超イケメンだから我慢するぜ!」
イケメンの意味を訂正しておくべきだろうが、なんだか陽向がいい感じなので水を刺さないことにした。

「ばっかねぇ、イケメンの意味ちがうでしょ」
俺のささやかな配慮を土足で踏みにじる女、ティア。お前は一体何なんだ。

「陽向お姉ちゃん、ありがとう!」
笑顔で茶菓子を受け取るななた。なんか陽向は保母さんに向いてそうだな。
そんな妹の将来を気にかけてしまうちょっとした一日だった。

作品名:ひまつ部① 作家名:天宮環