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ひまつ部①

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プロローグ



「――アンタ、今日からうちの部に入りなさい!」

放課後の教室。
艶やかな金碧の髪が窓から入る風にそっと揺られる。
翡翠の輝くような色をしたその瞳に吸い込まれそうになりながらも、華奢な身体をしたその少女は俺に言い放った。
紛れも無く目の前にいる少女はとんでもないほどの美少女なのは間違いないのだが、なんとも言っていることがおかしい。
このセリフさえなければ誰しも羨む絶好のシーンではないだろうか。
いやいやそんなことよりも、なぜこのようになったのかを解説せねばなるまい。

時は本日の朝にさかのぼる。

まだ春になりきれていない4月。
入学式やら始業式という春のメインイベントから1週間が経とうとしていたある日のこと。
俺と言えばいつもの平穏な日々を迎える支度をしていた。
いや、ただ朝が来ただけなのだが。

「お兄ぃちゃんっ! 朝だよ! 早く起きないとぉ…」
「うぅ… あと5分…」
意識がもうろうとする中、今ある欲求に身をまかせようとする。

「そんなこと言ってると、抱きついちゃうぞぉ! きゃぁっ〜!」
言い終わるかどうかという時点で布団を剥がれ、俺の身体に思いっきりハグを仕掛けてくるコイツは妹の陽向。
ピンク色の少しうねりが入った髪の毛。中等部2年の割にはもう少し背丈もあってもいいのではないか、と思う小柄で華奢な身体。

「もう既に抱きついてるじゃねぇかぁ!」
抱きつく、というよりかは華奢な身体のどこにこれほどの力があるのかと思わせるほど見事な締め技。ベアハッグに近い何かを感じたがとりあえず命あってのものだ。
早々に起きることにし、平穏な日々を送るという俺の使命はなんとか護られた。
いや、自宅でこれってどうなんだ。

「なんだぁ、つまんないなー。朝ごはん起きてるから早く降りてきてね、お兄ちゃんっ」
ベッドがらスルりと抜け、満面の笑みで陽向は部屋を出ていく。
朝からテンション高けぇな。
とりあえず制服に着替えるべく寝巻きのボタンを外し始めた時に奇妙な視線を感じた。

「…陽向。覗くな」
「えへへ〜、バレちゃあ仕方ないっ!」
「いやいや、だから入ってきてもダメだから」
テヘっと無邪気に笑いながら部屋の中に侵入してくる陽向。
何事も無かったかのように部屋へ入ろうとする陽向を追い出し、俺は制服へ着替えた。

「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした♪」
現在、俺は妹の陽向と2人暮らしをしている。
幼いころに両親が離婚して母親へ引き取られたのだが、その母親も陽向が小さい頃に他界した。
それ以降何だかんだで今に至る。
陽向がまだ小さい頃は俺が家事全般をやっていたのだけれど、最近は専ら陽向がこなしてくれている。

「よし、行くか」
朝のまったりとした時間を終え、俺たちは学校へ向かった。


俺達が通う学園はとてつもなくデカい。
幼稚園から高等部まで一貫しているという点、現在の教育基準を見直すべく独自に開発されたシステム。
完全寮完備、それなりなショッピングモールまで入っているという優れもの。
学園生活に集中できるように様々な配慮がされている。
とはいえ、俺達みたいに自宅通学のやつも多いみたいだけれど。
学園の敷地は寮エリア、学園エリア、購買部エリアの大きく3つに分かれている。
敷地内に入ってからでもそこそこ歩かなければ学園エリアにたどり着かないというくらい広いのだ。
それだけ人数が多いってのもあるんだろうけど。

「おはよう蒼空、陽向」
学園エリアへ向かう途中に子連れの女性と出会う。
いや、全員うちの学生だが。
ガーネットカラーに肩まで伸びたウェーブヘア。綺麗におでこの真ん中で分けられた前髪。
身長も高く引締った身体はいかにもスポーツ万能なイメージがある。
彼女は阿部 茄奈(あべ かな)。俺と同じ高等部2年である。

「2人ともおはよう! 今日も良い天気じゃな!」
ピンク色髪にツインテールな如何にも可愛い女の子、といったこの子はロリ・ベリング。
ロリは欧州生まれらしい。詳しくは良く知らないが、この学園の革新的な教育システムを体験すべく日本に住んでいる、と以前聞いたことがある。
話し方にジジィ言葉が混ざっているのが少々気になる初等部3年。

「おはようございます」
やや明るい茶色が混ざったようなショートヘアのこの子は桜井 春樹(さくらい はるき)。
名前だけ見れば男の子のようだがれっきとした女の子である。
後ろ髪を良く見れば、短いながらに小さく造られたポニーテールがなんだか可愛らしい初等部5年。
彼女達3人は学園の寮住まいである。

「みんなおはよう〜」
「おはよう〜」
俺達はいつものように挨拶を済ませ学園エリアに向かって歩いた。

「じゃあ今日も一日頑張ってこいよ」
高等部の校舎は学園エリアでも一番入り口側にあるので、最初に分かれる形となる。

「うん、がんばる♪」
そう言って陽向は俺の腕を離そうとはしない。

「お前の校舎は向こうだ。こっちは高等部だろ。毎日同じことをしなくてもいいだろうが」
「やぁだ! わたしお兄ちゃんと一緒に勉強する!」
「ロリ、はるたちは行こうか」
「そうだな、じゃぁみんな行ってらっしゃいだ!」
陽向がわけのわからない駄々をこね始め、一番遠い初等部の2人は早々に校舎へ向かって行った。

「陽向。別に一生の別れとかじゃないんだからさ」
「もし… もしだよ! 1限目に隕石降ってきて校舎が吹っ飛んだら!」
「ねーよンなもん」
「科学の実験で有毒ガス発生してみんなバタバタ倒れてしまったら! 教室入って椅子に座った瞬間に椅子が空へ飛んで行ったら! 魔王を復活しようとしてる悪の呪術者に捕らわれて! あぁっ、これが最後になるかもしれな――」

ペシッ

「あうっ」
陽向のおでこに軽くデコピンを一撃。
コイツの被害妄想は一体どこからやってくるのだろうか。

「飛躍しすぎた"かもしれない予測"はやめてくれ。そんなことが容易に怒られては安心して日常が過ごせないだろうが」
「全く蒼空の言う通りだぞ陽向。それに何かあれば私が蒼空を助けてやるから安心しろ」
陽向の頭にそっと手を添えなだめるように声をかける茄奈。

キーンコーン…

「っと、予鈴が鳴ったぜ、早くいかねぇと遅刻だ! じゃぁな陽向ー」
「あ、お兄ちゃん! もう… 行ってらっしゃいっ」
半ば強引に切り上げ俺と茄奈は自分の教室へ駆け出した。

教室へ到着し、毎日変わり映えのない生活。
授業を受け、休み時間は適当に過ごす。そんな変わり映えのない生活だけど俺は十分心地良かった。
呆気なく過ぎ去る時間。気がつけば6限目の授業が終わり放課後となっていた。
ホームルームを終え、各々の自由な時間が始まる。
それまで死んだような顔をしていた奴も、180度ひっくり返り命が吹き込まれたように輝きながら教室を去って行く。
はたまた、これから部活動に励む者も多い。
俺と言えば特に所属することなく、平穏な帰宅部を決め込んでいた。
特にやりたいものがなかった、というのが大きな理由だろうか。

「さて… と。陽向を迎えに行くか」
陽向は料理研究部に所属しているのだが、部活は週に2回。
部活がない時は一緒に帰宅するようにしている。
作品名:ひまつ部① 作家名:天宮環