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ラビリンスで待ってて

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エピローグ



久しぶりの日本だ。

あたしは名古屋空港のロビーで荷物が流れてくるのを待っていた。

国際便があるにしてはこじんまりした空港だ。

次の仕事が来るまで、この街にお世話になりそうだ。




あたしは卒業後、旅行会社に入社しツアーコンダクターの仕事をしている。

半月は24時間体制で働いて、後の半年は何もしないで過ごす。

若い頃は人気の業種だが、この生活リズムが既婚者にはなかなかできなくて辞めていく人が多い。

結婚もしなくて子供もいない、定住しないあたしには打って付けの仕事だった。

彼も転勤族なので、今は2週間おきに東南アジアと名古屋を往復している。

幸か不幸かこんな生活では嫁も来ない。

だから仕事がオフのときのあたしの仮住まいは、その時々の彼の居住地になる。





あたしは30歳になっていた。

そろそろ結婚しなさいと、親がうるさい年頃だが、仕事を優先しているということで何とかおさめている。

必ずしも嘘ではなくて、あたしは今のライフスタイルが気に入っていた。



最近、高校の時の松山サンから結婚の知らせがきた。

結婚式の写真がプリントされた葉書だった。

真っ黒に日に焼けてた女子高生は見違えるようにきれいになって白いドレスで笑っている。

相手の新郎の顔になんか見覚えがあって、あたしは首を傾げた。

あれ?この人。

途中で、転校してった隣のクラスの子じゃない?

青白い顔でビン底眼鏡をしていたが、すっかり男らしくなっている。

なんだ、やっぱり付き合ってたんだ。

あたしは少し笑った。

良かったね。

お幸せに。




やがて荷物が流れてくるとあたしは引き釣り下ろして、出口に向かった。

飛行機の到着時間は連絡してあるから、待っててくれてるはずだ。

人の波に流されながらあたしは彼の姿を探す。


「玲!」

懐かしい声がした。

海外生活で日に焼けた褐色の肌に、茶色の髪、色素の薄い瞳。

海外の露店で買ったであろうHard Rock Cafeってロゴの入った変な黒いTシャツを着ている。

まるで夜店でシルバーの指輪売ってる外国人みたいだ。

その男が人目も憚らず大きく手を振っている。

男も36歳になると周りの目が気にならなくなるのか。


「どんどん、なり振り構わなくなってくるなあ・・・。」


あたしは若干恥ずかしさを覚えて、首をすくめた。


彼は出口から出てきたあたしの荷物を奪い取るなり、待ちきれない様にあたしを抱きしめた。


「おかえり、玲。」

「ただいま、圭介。」

日焼けした彼の笑顔が眩しかった。

今回は1ヶ月くらいは一緒にいられるかな?

圭介のキスを受け止めながらあたしは考えていた。







結局、あたしたちは今でも迷宮の中にいる。

無理して二人でこうしているわけではなく、お互い他に相手がいなかったので、結果的にこうなってしまった。

DNAとか戸籍とか、色々考えたけど、地元を離れればそんなことは関係なかった。

見知らぬ土地に行って夫婦に間違われても、面倒なので否定もしないし、する必要もなかった。

あたし達が定住しないのは仕事の問題もあるけど、身軽さが心地良いせいでもあった。





外に出ると、6月の日本の湿気がむっと体を包んだ。


「ねえ、圭介。」

「ん?」

あたしは圭介を見上げて言う。


「あたしのこと待ってた?」

「いつも待ってるよ。」

圭介はいつもの優しい顔で笑った。



初夏の街路樹の緑が日に照らされてきらめいた。

















作品名:ラビリンスで待ってて 作家名:雪猫