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木村 凌和
木村 凌和
novelistID. 17421
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ローレンツ-mix

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イオレ



 イオレの父親は若く見える。両親が若い頃の子どもだから、実際同年代の子の父親よりも若いだけなのかもしれない。親子に見えない、とはよく言われる言葉で、聞きなれてしまった。
 イオレはその、若く見える父親と一緒に住んでいる。
 父親が何をしているのかは知らない。そもそも仕事というものをしているのかどうかも怪しい。イオレは全寮制の学校を卒業、魔導士の弟子として二年ほど過ごした後、父親と住むために首都で魔術師として働いている。
 イオレがまじないの準備のために朝早く家を出るとき、父親は未だ眠っているか家にいない。朝食のために一旦帰宅したときも、再び家を出るときも、夜帰宅したときもそうである。
 母親のことはあまり知らない。物心ついた後に別れたから顔も声も知っているし、写真を持っている。今どこで何をしているのかは知らない。父親は知っているのかもしれない――ずっとそう思っているが、イオレは父親にそのことを聞いたことは無かった。
 父さん。ある朝、イオレが一旦帰宅したとき、パンを齧っている父親がいた。呼ぶと、父親はなれなれしく片手を挙げる。
 卵を炒りながら、イオレは母親について聞く機会を窺い、父親はパンを食べきり手持ち無沙汰に座っている。
 また女の人といたの?、言うと父親は、あ、だの、え、だの、意味も無く口ごもった。図星かもしれない。この父親は嘘が上手いがイオレには嘘をつかなかった。女といたならそうだと言うのだろうし、そうではないなら違うと言う筈なのに。隠し事をしている。イオレにはすぐわかった。しかもそれは女性関係ではないらしい。
「新しい母親だよ、なんて言ったら炭にするから」
 じろり、睨みをきかせると、父親は慌てて違うそんなことじゃないと言い繕った。
 以前女性を紹介されたとき、イオレは腸が煮えくり返って、我を忘れ大暴れした。それ以来、イオレはこの父親から離れられずにいる。最低だが、未だ父親として好きなようだから。
 前に、お前には母親が必要だろう、と言われたことがある。母親を全く知らないわけではないし、学校は全寮制で周りも家族と接していなかったから、イオレはそう思ったことが無い。……全く無いわけではないにしろ。
 父さんは未だ、そんなふうに思っているのかもしれない。
 そう思うと、哀しいような嬉しいような、ない交ぜになってよく分からない気持ちが胸の中で渦を巻いた。ちゃんと職にだって就いている。父親と違ってまともに稼いで自立しているつもりだ。それなのに父親に未だ母親が必要だと思われるのは、心配されているのか、子ども扱いされているのか。どちらかに決められたら跳ね除ける事ができるのに。
 結局どちらに決めることも出来ずに、イオレは朝食を口に運ぶ。本当はどちらかではなく両方であってほしい。こんなふうに思ってしまうのは、未だ子どもだから、だろうか。
「……イオレ、」
 イオレは咄嗟に息を呑んだ。父親にイオレと呼ばれたことは無い。わけあってイオレというのは本当の名前ではないからだ。
作品名:ローレンツ-mix 作家名:木村 凌和