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密研はいりませんか?

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 操縦士が、着陸点を確認しながらそう言った。屋上に数人の男が出てきた。
「降りてくれ」
 男の指示に従い、下降し始めた。

 とりあえず、近藤にも聞いてみよう。
 そう思い、丁度今始まった一時間目までの五分休みに近藤のクラスに行く事にした。池上中学三学年は全部で三クラスある。春香は、そのうちのニ組。ちなみに山勢が一組、俺が三組だった。
 ニ組と言っても隣だけだからたいした事はないけど。ニ組の近くに来ると、扉の所で女子が溜まっていて中に入る事が出来なかった。しかたなくそのうちの女子一人に声をかけた。悪いんだけど、近藤呼んでもらえる? そう頼むといいよ、と言って近藤を呼びに行ってくれた。しばらくすると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「どうしたの?」近藤春香はそう尋ねてきた。久しぶりに顔をみたのは今日が始めてだろう。
 少しだけ肩にかかった短髪の黒髪、日本人にはあまり見られない彫りの深い目と長く高い鼻。肌は運動部でないので、白い。外人に近い顔立ちだった。その為、正直なところ日本の制服は顔にあっていなかった。だが、その近藤が学年で一番といっても過言でない程、モテる女子なのだから「おい、お前制服似合わないぞ」とは言えない。ましてやそう思っているのも、自分だけだろう。一度、山勢に近藤の制服について聞いてみた事があったが、「別にどっちでもいいよ」と言って市役所の記録表を熱心に読んでいた。ちなみに山勢が気になっていたのはゴミ出しの日程がどのように変わっていたのかという事だったらしい。山勢曰く、このゴミ出しを元に地域の生活の移り変わりを知る事ができる、らしい。今思えば、最高にどうでもいい調査だった。その頃は最もネタのない時期だった。
「何見てんの?」
 近藤にそう云われ思い出にふけっていた自分に気づいた。
「ごめん。何でもない」
 気を取り直し話し始めた。
「今日、山勢に何か言われた?」
 そう訊いてみると表情が変わった。
 やっぱり。
「うん。なんか……今年に入って一番の発見だ、これは密研全員で調べなければならいない、一大事だ、とかいってガッツポーズとって喜んでたよ」
 近藤はそう言いながら、笑顔でガッツポーズしてみせた。
「何だよそれ」
 山勢がそんなに張り切ってると知ってついおかしく、笑ってしまった。
「西乃は何か言われたの?」
 逆に近藤に訊かれた。
「俺は、ベンジャミン・ディズレーリの名言覚えてる? って訊かれた」
「ベンジャミン・ディズレーリってホロコーストを調べた時に出てきた人?」
「そう、それで出てきた人」
『ホロコースト』学校の社会の時間では絶対に触れる所だった。俺たちは、何故ユダヤ人がそこまで迫害されたのか真相が気になって調べた。そこでユダヤ人を中心的に調べた。そして出てきたのがイギリスで初のユダヤ人大統領になった、ベンジャミン・ディズレーリ。
「その名言って――」
 近藤がそう言いかけた時、またしても丁度のタイミングで鐘が鳴った。
「またかよ。まぁいいや、じゃまた後で!」
 
「イタリアもフランスもそうだが、何でヨーロッパの野郎は、気取ってんだ?」
 ヘリコプター内でサンドウィッチを食べていた男が、口元のパン屑をとりながらそう言った。右手の小指にはめられた指輪が廊下の黄色いランプの光を受けてきらめいた。
 どうやら、ビルのドアマンが気にくわなかったらしい。
「どうでもいいだろ」
 ヘリコプターから一緒にいる男が一度視線を向けてそう言った。
 なんとも簡単に流した。
 この男は指の先までがっしりとした体躯なのに、ひどい猫背だな。まるで背中に石を乗せているようだ。さながらアメフトマンだな。見ていて、窮屈に感じる。こんな奴があの区域を抑えられるだけの男なのだろうか。会ってからまだ数時間という事もあるだろうが、やはり、似つかわしくない。
「何見てんだよ」
 パン屑をとり終わったアメフトマンは観察されている事に気づき、そう言った。
「何でもない」
 男はそう言い、視線を前に戻した。
 赤土の上を二匹の黄色い龍が走ったような模様の絨毯の上を淡々と進んで行く。前方には質素な扉があるだけ。近づくにつれ、声が聞こえてきた。
「どうやら、もう会議が始まってるらしい。遅れた」
「へっ、文句ならあのクソ操縦士にでも言ってくれ。俺には関係ないからよ」
 アメフトマンは得意気にそう言い、両手で扉を開けた。
 別にそういう事で言ったわけではないが。
 中に入る。すると、円卓のテーブルの一番奥に座る男が立ち上がった。
「自己紹介のやり直しかな」
 
 それから六時間あまり経ち、密研室に集まる時間になった。密研室と言っても、今は使われなくなった第三理科室が活動場所になっている。特に不備は無いけど、さすがに生徒三人だけでは机が多い。長机が六つあるけど使うのは大体、二つか三つ程度で残りは掃除の時以外、全く触らない。後ろのほうの棚に試験管や何やらもあったけど全く使ってない。一度大掃除で試験管を洗おうとした時に中でハエが死んでたぐらいだった。
 そんな事で、帰りの会の後直ぐに密研室に向かった。三年の階の一つ下にある、二年の階に降りて密研室を目指した。二年の階には教室と反対側に卓球部の練習場所があり、その先に図書館、最後に密研室がある。密研室に向かうときは嫌でも卓球の玉が飛んでくる。
「ごめん、遅れた」
 密研室の前でそう言うと自信ありげな表情を浮かべて、教卓の上に置いた紙を見ている山勢、それを不思議そうに見つめる近藤が既にいた。すると山勢がこちらに気づいて顔を上げた。
「遅かったじゃんかー。ささ、早くそこ座って」山勢はそう言いながら手前の近藤の隣を乱暴にすすめた。こちらが座ったのを確認すると、黒板の方をぷいっと向き何かに取りかかり始めた。
「今日どうしたんだろうね、山勢」
 近藤は小声でそう言ってきた。
「さぁ~。でも分かるのはいつもより張り切ってて、必死な事だけだな」
「確かに」
 近藤はそう言って黒板に向き直った。黒板左端にマグネットで何かのポスターを貼付けてるようだ。その後、黒板の中央に見慣れない英単語を書き綴っている。意味が気になり近藤に尋ねた。
「あれどういう意味?」
「分かんない。でもあれって一つの単語っぽいね。だけど後ろの綴りはウルフって書いてあるから、狼に関係してるんじゃない。分かんないけど」
 近藤は笑顔でそう言った。これが彼女の癖だ。本人は気づいてないらしいけど自信が無いときはいつも、笑顔になる。
「あの、Woolfっての?」
「そう、あれ狼の単語」
 近藤がそう返事をした時、山勢が手を止め、こちらに向き直った。
「はい、どうもみなさん」
 山勢はテレビに出てくるようなセールスマンの口調と手の甲をさするような仕草をしながらそう言った。
「どうしたんだよ」
 その仕草が不釣り合いだった為、笑いながらそう尋ねた。
「笑うなよ。こっちは真剣さ」
 そう言って黒板の右端に移動した。
「おっけー。じゃこのT・h・e・o・W・o・o・l・fってどう読むか分かる?」
 山勢は単語の書かれた黒板の上を指でなぞりながらそう尋ねてきた。
「前のやつは分かんないけど、後ろはウルフだよね?」
 近藤がそう答えた。
作品名:密研はいりませんか? 作家名:paranoid