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人を呪わば穴二つ

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第二幕 ひとりにしないで


 夢現を彷徨いながら、杏里は一人考える。
 ある日突然、帝人の態度が他所他所しくなった。無視されたりはしないものの、話しかけても用事があるから、忙しいからと早々にあしらわれる。最初は本当に忙しいのだろうと思っていた。しかし、それが数日続くと、杏里ははっきりと避けられているのだと悟った。杏里には、身に覚えがある状況だった。
 ある日突然、昨日まで普通に話していたはずの同級生が、こぞって杏里を避け始めた。戸惑う杏里を、数人が教室の隅で嘲笑った。どこにでもある、いじめの始まりだ。
 あの時は、張間美香が助けてくれた。一部の生徒を除いて、杏里を無視することも無くなった。杏里は、見て見ぬふりをする同級生を、特に恨んではいない。誰しも、自分がターゲットになるのは嫌なのだ。それは杏里とて同じことだ。
 ――――――でも、今は違う。
 帝人は、いじめられるのを恐れて杏里を避けているわけではない。何か別の原因があるのだ。
 ――――――何か悪いことを言ったのかな……。
 その前の日までは普通に過ごしていたし、帰りも一緒だった。杏里は何度もその日のことを思い返すが、何も心当たりが無かった。そもそも、ありきたりで穏やかな一日だと思っていたので、それほど記憶に残っているわけでもない。何が悪いのか分からなければ、謝ることもできない。杏里は、漠然とした不安に苛まれていた。
 ――――――もしかして、嫌われちゃったのかな……。
 辿り着いた想像に、杏里の胸はぐっと苦しくなる。両親が亡くなって、高校に入ると美香とも距離が出来て、正臣は行方をくらまして。帝人は、杏里の残り少ない親しい友人だった。
 ――――――ひとりに、しないで…………。
 胸の奥で、十歳の少女が泣いていた。






「いやぁ、君が見舞いに来てくれるとは思わなかったよ。わざわざありがとう」
 椅子に深く腰掛けた姿勢で、岸谷新羅が朗らかに笑った。テーブルの上には、有名な洋菓子店のロゴ入りの箱が乗っている。
「……悪かったな。こっちの都合で巻き込んで、大怪我させちまって」
 菓子箱の向こうで、平和島静雄が、ばつの悪そうな顔をして座っていた。
「やめてよ気持ち悪い。悪いのは犯人であって、君じゃないさ」
 新羅は全く気にした様子もなく笑い飛ばしたが、静雄の表情は優れない。じっと黙りこくってしまった静雄に、新羅は笑みを苦笑に変えた。
「いいんだよ。こうして無事生きてるんだから。それに、僕としては、セルティとラブラブ入院生活もなかなか新鮮だったというか、ぶっちゃけ楽しかったというか」
 新羅がにやにやしながら惚気た言葉を口にした途端、静雄の米神に血管が浮いた。新羅は、珍しく空気を読んで途中で口を閉じた。まだ完治したわけではないので、今は静雄のデコピンでも致命傷だ。
 無言で向かい合う二人の横で、風を受けたカーテンが翻った。爽やかな空気が室内を通り抜ける。
「……そういや、セルティはどうした? 仕事か?」
 不意に、静雄が尋ねた。
「いや、仕事じゃないんだけどね。ちょっと出かけてるんだ」
 そう言いながら、新羅は何か思い出したようにぽんと手を打った。
「せっかくだし、お菓子開けようか。君も食べるだろ?」
「いや……」
「いいからいいから。どうせ、僕一人じゃこんなに食べられないよ。糖尿病になっちゃう」
 渋い顔をする静雄に、新羅がおどけて笑った。
「そういえば、お茶も入れてなかったね」
 新羅が立ち上がろうとすると、静雄がそれを手で制した。代わりに立ち上がった静雄に、新羅が眼鏡の奥の瞳をぱちぱちと瞬かせる。
「気遣いはとっても嬉しいんだけど…………キッチン、壊さないでね?」
「アホか」
 神妙な表情を浮かべる新羅を、静雄が眉を寄せて一蹴した。新羅は浮かしかけた腰を椅子に戻すと、嬉しそうに言葉を紡いだ。
「今日はお客さんが多いからね。皆でご相伴に預かろうじゃないか」
「何だよ。他にも客が来るのか?」
 キッチンに向かいかけていた静雄が、怪訝な顔をした。
「うん。多分、あと二人かな」
「……だったらよ、俺はもう帰ったほうがいいんじゃないか?」
 静雄が遠慮を見せると、新羅はおおらかに笑って首を振った。
「大丈夫だよ。君も知ってる人だから」



作品名:人を呪わば穴二つ 作家名:窓子