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恋するワルキューレ 第三部

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ツバサやワルキューレの実業団の人達は、ちょっと裕美をイジったり、セクハラをしてからかったりするのだが、テルもユタは自分達が年下だということを心得てちゃんと裕美を立てくれるのだ。そんな立場は裕美としても心地良いし、自尊心をくすぐってくれる。――かと思うと、テルとユタは今日の様に裕美を頼るなど、甘え上手な所があるなど、女の扱い方も心得ているのがニクイ。流石はアイドルと言えよう。
「裕美さーん、『マドン』、すげーイイッすよ! 軽いのに剛性もバッチリで。オレも欲しい!」
「新しいデュラも変速性能が上がってるよ。さっすがシマノだよなあ。電動デュラもどうなるんだろ?」
「もう、二人ともそれくらいで良いでしょう? クッキーを買ってきたのよ。みんなで一緒に食べない?」
「もちろん、頂きますって!」

「裕美さん、このクッキー、うまかったです。ごちそうさんでした!」
「確かに美味かったなあ。これどこで買ってきたんや?」
「あのね、今日は二子玉の『Gramercy New York』で買って来たの。そのお店でケーキも食べて来たんだけど、デコレーションも綺麗で凄い美味しかったの。それでクッキーも買ってきたのよ。また行きたいわね、舞?」
「うーん……、確かに素敵なお店なんですけど、ちょっと車が怖かったですよ。歩道は人も多いし、段差もあってロードバイクだと走りにくかったですよねー」
「そうねえ……。もう一度行きたいけど、確かにちょっと厳しいかもね」
「裕美先輩、でしたら次は『お買い物自転車』で行きませんか? あれならカゴもありますからケーキだってテイクアウトできますよ」
「舞、『お買い物自転車』ってママチャリのこと? やあよぉ、そんなの。まるでオバサンみたいじゃない!?」
「ええ? 先輩、何を言ってるンですか? わたしの『お買い物自転車』って凄い便利なんですよ。電動アシスト付で楽々なんですから」
「舞ったら、それじゃサイクリングにもならないし、お腹も減らないから太っちゃうわよ?」
「そうですけども、やっぱりロードバイクってちょっと怖いんです。お買い物自転車と比べるとフラフラする感じで……」
「わたしはそんな怖いことはないけど……」
「センパイはもうロードバイクに乗り慣れているし、運動神経が良いからですよ。わたし、そうゆうの苦手なんです……」

 そうなのだ。恋愛では無敵とも言える舞であったが、意外にもスポーツは苦手な部類に入るらしい。誰しも苦手なものはあるだろうが、恋愛はもちろん仕事もソツがない舞に“苦手”なものがあるというのは少々意外だった。
舞に言わせると、子供の頃から運動神経が良くなかった上に、背が小さいこともあってスポーツ全般は苦手だったと言う。
ただ本人に言わせると、スポーツが苦手ということは学校の成績にもほとんど影響もないし、むしろスポーツが苦手な方が男からの受けが良いらしい。
弱い女を見せて、男の人に媚びを売るのはどうなのかしら?と舞にさり気なく注意を促したが、舞は「それで良いんです」と軽くリターンを返してきた。
「センパイ、女が全てを完璧にこなす必要はないんですよ。趣味や得意なものが合うってもの男女の関係としては悪くないですけど、お互いに補う関係もステキじゃないですか? だからわたしは男の人が頑張っているのを本気で応援できるんです」
 100%正論であり、しかも言行一致の舞の言葉に、裕美はグウの根も出ない。
舞は富士チャレンジの時も名マネージャー振りを発揮し、“ロワ・ヴィトン”の女性応援団を飛び越して、それどころか、チーム『ファランクス』のメンバーとして認められるまでになっていたからだ。
裕美は恋愛に関する舞の“完璧”さを再び思い知らされた――。
だが、そんな完璧な舞でも、やはり苦手なものとして克服したいものであったらしい。
「でも――、ロードバイクで颯爽と走れたら気持ちイイでしょうねえ……。センパイみたいにステージでもキメてみたいし……」
舞はそんなことも、ふとつぶやいたりしたのだった。
裕美やローランがデザインしたフレームをプレゼントされて、舞もロードバイクに乗り始めたものの、そんな直ぐに“苦手”は克服できるものではない。舞はその『お買い物自転車』しか乗ったことがなく、ロードバイクの極端な前傾姿勢はかなり怖いものだったらしい。
仕方なく舞のヴィーナス・バイクに『補助ブレーキ』を付けざるを得なかった。
 ロードバイクのブレーキはドロップハンドルの一番遠い位置に付いており、深い前傾姿勢を保って手を伸ばす必要があるのだが、初心者にとってそのポジションはなかなか厳しい。なので舞は、握り易いハンドルの手前の部分に『補助ブレーキ』を付けて、前傾姿勢を取らずともブレーキを掛けられる様にしてもらっていた。
幼児用自転車の『補助輪』とは言わないものの、舞のテクニックはそれに頼らなくてはいけない程だったのだ。
 
「特に車道は怖いですもん。サイクリング・ロードなら安心して走れるんですけど、車道は走るのはちょっとですね」
「まあ確かに舞の言う通りよねえ。サイクリングロードを違って、車道は私も怖いわあ。狭い道路だとギリギリまで車が幅寄せしてくるし、路上駐車している車があると道路が塞がれちゃうから本当に困るのよねえ」
「かと言って、歩道を走ると今度は段差がツラいんです。ロードバイクはタイヤが細くて固いですから、すぐにガツンときて転びそうになっちゃいますもん。センパイ、次はやっぱりお買い物自転車で行きません?」
「うーん、そうは言われてもねえ……」
「まあ、ママチャリで行くのも一つの考えやわな」
 それまで黙って話を聞いていた美穂が初めて口を開いた。
「ママチャリは日本の道路事情に合った乗りもんやからな。舞みたいな考えも実は正しいんや。でもロードバイクに乗る限り全く車道を走らないってことは現実的に無理やろ?」
「じゃあ、美穂姉え? 一体どうしたら良いのかしら?」
「簡単や。練習あるのみやろ! テル、ユタ。ちょっと二人にロードバイクに乗るコツを教えてやってや?」
「美穂さん、オッケーっすよ。マドンにも乗らせてもらったし、デザートもごちそうになったし、お安い御用です」
「任せて下さい。美穂さんに徹底的に叩き込まれましたからね。バッチリ教えますから!」
 テルとユタの二つ返事を聞いて、舞の瞳が輝き始めた。
「わーっ、お二人が教えてくれるんですか? テル君とユタ君に教えてもらえるなんてうれしいです!」
「おっとー、テル、ユタ。舞に変なことをしたらわたしが許さんからな!」
「ちょっと、美穂さん、何てことゆうんすか!」
「そうですよ。俺達そんなことしませんって!」
「キャー! お二人なら何をされたって、わたしOKですよ」
舞はニコッと満面の笑みを浮かべ、「ふつつかな女ですけど、よろしくお願いしいますね」と、二人にお辞儀をした。

「裕美さん、舞さん。二人とも車を運転したことあると思うんですけれども、ズバリ、車道を走る自転車ってどう思いますか?」
…………。