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タオル

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「お探し物ですか」
背後から声をかけられた。
振り向くと年配の女性の店員だった。
「あ…その、タオルはどちらかしら」
「タオルでしたら4階の衣料品売り場でございます」
その可能性に気がつかなかった自分にわずかばかりの嫌悪を覚えた。
通い慣れた店なのに。
「あら、そうなの。どうもありがとう」
加寿子は5階のレジで歯磨き粉を購入するとエスカレーターで4階に降りた。
もう時間を無駄にするのはよそう。
そばにいた店員をつかまえてタオル売り場を尋ねる。
教えられた場所に行くと確かにタオルが棚いっぱいに並んでいた。
加寿子は真っ白なタオルを手にとって、慣れた店で売り場がわからなかった理由がわかった。

タオルを買ったことが無かったのだ。

自宅で使っているタオルには必ず、夫の勤め先と取引のある会社の名前が入っていた。
年末年始にもらうものだ。
今までタオルは、夫が勤め先から持ち帰ったものを使うのが当たり前だったので買う必要がなかったのである。

「もう3年だものね」
加寿子はつぶやいた。

今夜は胃に優しくて栄養のつく食事にしよう。
作品名:タオル 作家名:ひろあき