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恋の掟は冬の空

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止まった時間が


起こされたのは、もう4時少し前の時間だった。
2人で畳の部屋で、宴会が終わった後に横にさせてもらったら、ぐっすり寝込んでしまったみたいだった。俺も直美もなんだか、ほっとしてお酒が入ったからだったかもしれなかった。
「このまま、泊まっちゃってもいいけど、お家に帰るんでしょ・・」
「すいません、すごく寝ちゃったみたいで・・」
直美が髪を直しながら隣で答えていた。
「ごめんなさいね、送っていくんだから、飲まないようにいったんだけど・・」
叔母さんの目線の先には大きなソファーに横になってぐっすり寝ている叔父さんだった。
「叔母さん大丈夫です。世田谷線でもかえれますから」
俺が少し荷物を持てばなんとかなりそうな気がしていた。
「だめよぉ、今、タクシー呼んであげるから、それで帰りなさいね、病院に迎えにいって家まで送るんだって張り切ってたんだけどね、この人・・」
「楽しかったですから、劉も私も・・」
「そうねー また みんなでいっしょにご飯べましょうね、わたしも 楽しかったわ」
「はぃ、今度はきちんとお手伝いしますから、お片づけもきちんとしますから・・」
寝ている間に、叔母が綺麗に1人で片づけものをしていたようだった。
「直美ちゃん、いいのよー そんな事は・・でも、お料理は直美ちゃんとだと楽しいからいっしょに今度はつくりましょうか・・」
「はぃ いつでも呼んでください、わたしも楽しいですから」
叔母がうれしそうな顔で直美を見ていた。

しばらくすると、叔母が呼んだタクシーが玄関の前に来ていた。きちんと言うと、タクシーではなくて、叔父さんの会社が良く使っているタクシー会社の黒い車のハイヤーだった。
「叔母さん、いいのに・・普通ので・・」
「でも、荷物持ってもらわないといけないから、木村さんなら、お願いできるから・・」
どうやら顔なじみの運転手さんらしく、荷物を叔父の車から乗せ変えながら、叔母に、お部屋まで運びますから、大丈夫ですよって、話をしていたようだった。
「じゃぁ、送らなくてごめんなさいね」
「いえ、長い時間おじゃましちゃってすいませんでした。叔父さんには、よろしく言って下さい」
「なにも、お手伝いしないで、ご馳走になっちゃいました、ありがとうございました」
車に乗り込みながら、俺に続いて直美も頭を下げてだった。
「じゃぁ、近くまではわかりますので、お出ししますね」
運転手さんの声で俺たちには不似合いのハイヤーが動き出していた。初めて乗ったけど、やっぱり白手袋だった。
走り出して、角を曲がる時に振り返ると、叔母はまだ、洋館の前の道路にでていたから、あわてて頭を下げていた。直美もだった。

車は豪徳寺の駅のほうを回ると時間がかかりそうだったので、運転手さんが経堂駅のほうから車を回してくれていた。
「すいません、あそこの信号を曲がって少しですから・・」
跳ね飛ばされた交差点まで、10分ちょっとで、たどり着いていた。
「曲がって、あそこでよろしいでしょうか」
指を指したマンションで合っていた。
「そうです、すいません。マンションの玄関に車つけられますから」
「はぃ、ではそこに、お止めしますね」
車がマンションの敷地に入って停止すると、すばやく運転手さんがドアを開けてくれたので、2人で少しびっくりしながら車を降りていた。
「お荷物はお持ちしますから、お歩きください」
「すいません、ありがとうございます。でも、これは私が持ちますから」
直美が1つで、運転手さんが2つも荷物を持ってくれてエレベーターに乗って5階までだった。
「ここですから、ありがとうございました」
「いえ、お大事になさってくださいね」
「ほんとに、すいませんでした、助かりました」
2人で丁寧に頭を下げた。
最後まで、とっても親切にしてもらっていた。

「やっと、ちゃんと 帰れたわぁ、よかったぁ」
「おかえりなさい、劉」
「うん、ただいまです」
ドアの鍵をあけて、玄関の中に入ると、なぜか丁寧に言われて恥かしかった。
「やっと、帰ってきたね、もう絶対入院なんかしないでよね・・」
「うん、気をつけるよ、さ、上がろうよ」
「まだ、だめ・・」
荷物を下ろさせて、背中を狭い廊下にもたれながらだったけど、直美の背中に手をまわして抱きしめていた。
「しばらく このままでね、劉・・」
「うん」
直美の手が腰にまわっていた。
静かに息をして、静かに指先で想いを伝えると、
直美のあたたかな胸の音が体に静かに伝わっていた。
このまま いっしょに深い眠りにつきそうなほどに、安らかでゆっくりだった。
交差点で止まった時間がやっと帰ってきていた。

作品名:恋の掟は冬の空 作家名:森脇劉生