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恋の掟は冬の空

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横でずっと


「ビールも飲みますか・・」
空になったシャンパンボトルを手に、少しだけ頬を染めていた直美に聞いてみた。
「飲んじゃおうかなぁ・・酔ってもいいよね、今夜は・・」
「うん。明日はバイトないんでしょ、朝はゆっくり起きればいいよ」
「うん。ではビール飲んじゃいます」
少し酔っていたみたいで、手に持ったグラスを上げながらだった。
「ちょっと待ってね」
片足で立ち上がって冷蔵庫に向かっていた。手をダイニングテーブルから椅子へ、それから食器棚に添えながら、片足けんけんの移動だった。
「やだぁー 無理しないでよ」
「平気だってば」
なにかに手を置いていれば部屋の中の移動は杖なしでも大丈夫そうだった。
下の部屋には迷惑な足音が響きそうだったけど。
「もう、わたしがやるから座ってて・・杖をちゃんと使ってよ」
追いかけてきた直美に冷蔵庫を先に開けられていた。
「大丈夫だってば・・部屋の中なら平気なんだってば・・ビールぐらいだせるから」
「いいの、黙って座ってなさいって、もう、そういうとこ頑固なんだから・・」
缶ビールを手にした直美に少し怒られていた。
「わかりました、はぃ これ・・」
ちょっと意地になって飲み干したグラスを取りに戻って直美に差し出していた。
「もー まったく・・あきれるなぁ・・はぃ。じゃあ これ持ってって」
ビール用の新しいグラスをお返しに鼻先に差し出されていた。
「そっちも けっこう頑固だもん」
「あー まったくー」
笑いながらソファーの前にグラスを抱えて片足けんけんで、逃げてていた。

「ま、それも劉の、好きなところのひとつだけどさ・・」
缶ビールをグラスに注ぎながら顔を近づけて言われていた。
「俺もだけどね」
「わたしは、素直ないい子ですけど・・・劉の事大好きだもん。ね、ちゃんと言えるでしょ」
「わかった、わかった 乾杯ね」
「うん」
直美はやっぱり酔い始めているようだった。
「明日は、どこか行きたいとところとかあるの、劉は・・」
「別にないよ・・夕方までここがいいや」
「ここがいいやじゃなくて、わたしと一緒がいいんでしょ・・」
恥ずかしそうにビールを口にしながら赤い顔でだった。
「うん、そうかも」
恥ずかしかったけど正直にだった。
「もう 入院なんかしないでね。置いてきぼりみたいで、寂しいんだから」
「わざとじゃないからさ、仕方ないじゃん」
「でも、劉のこの部屋があって助かった・・怒られるから言ってなかったけど、毎日ここで寝起きしてたもん。荷物いっぱい増えちゃった」
「昼間見てわかったから、いいよ、今回は普通のことじゃないんだから怒ったりなんかしないって」
一緒のマンションに、田舎から引っ越してはきたけど、なるべくきちんと生活をしたかったから、普段は同棲みたいには暮らさないようにって決め事だった。
「でも、劉が日曜にきちんと退院しても慣れるまで、ここでの時間ながくなっちゃうかも」
「うん、いいよ。学校休みになったし、俺もしばらくは直美と一緒にいっぱい居たいや」
俺も酔ったみたいで、さらに恥ずかしい事を口にしていた。
「よかったぁ。ねぇ もう少し飲んでもいいかなぁ」
空きそうになったビールの入ったグラスを少し持ち上げていた。
「飲んでもいいけど、大丈夫なの、そんなにいつも飲まないのに・・」
「今日は、なんか飲みたいんだもん、まだ、酔ってないし」
言いながら冷蔵庫から缶ビールを手に戻ってきて、俺のグラスと自分ののグラスにビールを注いでいた。
「着替えちゃっていいかなぁ お腹いっぱいで・・ねえ、劉も着替えるでしょ・・」
「うん、先に着替えちゃえばよかったね。何でもいいから持ってきて」
着替えるって言っても、スエット上下ぐらいだったけど。

「はぃ、これでいいかな」
パジャマにカーディガンを羽織って戻ってきた直美に言われていた。
「うん」
手には、高校生の時に来ていたトレーナーだった。それも腕に学校の名前が入って、背中には自分の名前が入ったものだった。
「これって、どこにあったの・・」
「洗濯もの片付けてたら劉の引越しの箱の中の下のほうから。ねぇ、懐かしいから着てみてよ」
バレー部で使っていたトレーナーを手にして着替えていた。
「わぁー 懐かしいなぁ・・これって 試合の時とかにユニフォームの上に着てたんだっけ・・」
「うん、練習とかでは着なかったから、けっこう綺麗なのかも」
「ここの KASHIWAKURAって背中の文字をよく離れたところから眺めてたなぁ。あんまりしゃべったことのない1年生の時かなぁ。劉のことを見てるだけで、うれしかった頃だなぁ・・」
「声かければよかったのに・・」
「あー それは劉もでしょ。劉もその頃は、わたしを見てるだけでうれしかったって前に言ってたくせに」
お互い様だった。
「あっ、ごめん、夢を壊すようで悪いけど、これは3年生になって作り直した新しいのだから、1年生に見てたトレーナーじゃないや、デザインは一緒だけど」
「そうなんだぁ。でも、思い出のトレーナーには違いないから。劉は直美の思い出の服とかないの・・」
「あるよー 3年生の「歩く会」の時にオーバーオール着てたでしょ、頭に小さなゴムつけて・・あれかわいかったなぁ」
「そうなんだぁ。一緒に1番長く歩いた時だね、あれって25kmぐらいだったもん」
「ゴムでしばってあげようか ここんとこ」
「いいってば・・」
「赤だったかなぁ、あの時って・・あ、あった・・」
立ち上がって、カバンの中から取り出しているようだった。
「ほら、ここでしょ・・」
「そうそう、そんな感じ」
「かわいい?」
「うん」
「でもね 夢壊しちゃうけど、これはあの時のゴムじゃないよ・・」
笑いながらだった。
「明日は、あのオーバーオールも着てあげるね、ゴムもここにつけて・・」
もっと笑いながらだった。
さすがに俺はこのトレーナでは外は歩かないぞって思っていた。
時間を忘れて、食べて、飲んで、話しをしていた。
高校生の時に話せなかった話をお互いに話していた。
直美が酔って、頭を肩に乗せながら眠るまでずっと、ずっと、だった。

作品名:恋の掟は冬の空 作家名:森脇劉生