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恋の掟は冬の空

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聖ラファエル教会


「ここ曲がるんだっけ・・」
「そうそう、そうしたら右に見えるから教会・・」
聖ラファエル教会がもうすぐだった。
「うわぁー 綺麗・・・」
直美と夏樹の声が車内に響いていた。
教会の建物と回りに植えられていたいくつもの木には星のようにライトが輝いて、1番大きな木はツリーの様だった。
「おぉーすげー」
大場も運転席で声を出していた。俺もこんなに綺麗だとは思ってなかったから、驚いていた。子供のころ見たときは大きな木にだけライトのはずだった。今は教会の敷地が星いっぱいの空のようだった。
「車を停めて、教会の中にもはいってみようか・・」
「うん。おじゃましようよ、劉」
うれしそうな直美だった。
「いいのかぁなぁ・・そんなこと・・」
夏樹と大場は同じことを口にしていた。
「あ、そっかぁ 知らないんだ・・。劉ってここの教会の神父さん知り合いなんだよぉ」
直美が少し笑顔でだった。ステファン神父の事だった。
「なんだ、それ・・お前クリスチャンなわけー 知らなかったぁ」
「違うってば、叔父さんの家の隣だから、昔ここでよく遊んだだけだってば・・」
大場の大きな声に、大きな声で答えていた。
「ふーん、そっかぁ、確かに隣だからなぁ・・・。うーん、ここしか車、止められないかも・・」
大場は言いながら左に寄って道路に車を止めるようだった。
「平気かなぁ。警察来ないかなぁ・・」
「大丈夫だろ、きっと」
駐車違反だったから心配顔の大場に、悪かったけど、短い時間ならって思って適当に答えていた。

「さ、行きますか。もうミサ終わっちゃったかなぁ」
教会の入り口に向かって歩いていた。
「あ、でも、歌声きこえるよぉー」
左の杖1本だったから右の腕に腕を絡ませながら直美の声だった。
「ほんとだぁー 賛美歌かなぁ・・」
夏樹が後ろからだった。
入り口はまだ、開いていて、綺麗な星空のようなイルミネーションがいっぱい光っている中の芝生の敷地を4人で聖堂に向かう事にした。
ほのかな明かりが聖堂のステンドグラスから漏れていて、聖歌隊の歌がだんだんと大きく聞こえていた。
大きな聖堂のドアを引くと、聖歌隊の歌がはっきりと、たくさんの信者の手に灯ったいくつものいくつもの、ろうそくの明かりの中で響いていた。
照明は落ちていて、ろうそくの明かりだけが聖堂内を照らしていた。
遠くの正面の祭壇には 大きな燭台に灯ったろうそくの明かりの中にステファン司祭の顔が見えた。
「 きれい ・・」
隣の直美が小さな声を出していた。
「どうぞ、こちらをお持ちください」
入り口の横にいた若い神父さんに、ろうそくを差し出されていた。俺にも直美にも大場にも夏樹にもだった。
「どうすんだ・・これって」
火が灯っていないろうそくを握りながら大場がめずらしく小さな声だった。
「えっとね、たぶんなんだけど、火がついてる人からもらうのよ 火を・・。近くによって頭を下げれば点けてくれるから」
「そうかぁ。恥ずかしいなあ、なんか・・」
「いいから、一緒にもらってこよう大場、直美と夏樹はここで待ってて」
大場はめずらしく緊張しているようだった。
大場と少し歩いて、1番後ろの席にたどり着いて火をわけてもらっていた。
大場は小さな女の子に頭を下げて、俺はその隣の小学生らしい男の子からだった。
明かりが灯ったろうそくを持って元の入り口のそばに戻ると、二人ともうれしそうにろうそくを持って待っていた。
俺は直美に、大場は夏樹にその火を灯していた。
キャンドルの明かりの中に直美の大好きな笑顔だった。

「信者さんの中に入ってみようか。あそこなら空いてるから」
右側の列の後ろのほうに少し空いているスペースがあった。
「うん、いこう。ほら、夏樹も大場くんも・・」
直美の声で4人で移動してミサの中に入っていった。長い椅子の間に立つと聖歌隊の歌が終わって、ステファン司祭のお話が始まるようだった。
「では、回心の祈りをみなで捧げてミサを締めくくりましょう」
ステファン神父の大きな、落ち着いた声が聖堂内に響いてきた。
「主よ、私たちは弱く、不完全でいろいろなあやまちをお詫びしなければなりません。アーメン。 主よ、たくさんのお恵みをいただいたのに、あなたと人々への感謝が足りなかった事をお詫びいたします。夫、妻、子、両親、親戚、友人、同僚、すべての人に対して思いやりが足りなかった事をお詫びいたします。 主よ、あなたはいつも許してくださるのに、私は他人を許す事が出来ないときがあります。おわびいたします。 全能の神が私たちをあわれみ、罪を許し、永遠の命に導いてくださいまうように。 アーメン」
聖堂内に信者の「アーメン」が響いていた。直美の声も夏樹の声も、それと恥ずかしいのかちいさな大場の声もだった。
「それでは、本日のミサは終わらせていただきます。お時間がある方は隣の部屋に祝賀会の用意がございます。是非お立ち寄りください」
言い終わるとステファン司祭は祭壇を降りて信者の中に歩いていって、一人ひとりに声をかけていくようだった。
「よかったねぇー なんとか間に合って・・ミサなんて初めてだから緊張しちゃった・・」
直美が顔を近づけてだった。
「うん。俺も緊張しちゃった」
大人になってから初めてだったから俺もけっこう緊張していた。
「すごく よかったけど、私も緊張しちゃった」
「俺が1番なんじゃないか、緊張したの・・」
夏樹も大場もだった。
「さ、ろうそくを祭壇の燭台においてこようか・・」
みんなで祭壇に向かって歩き出していた。叔父と叔母の顔が祭壇の近くに見えていた。忙しそうにいろんな人と挨拶をかわしているようだった。まだ、こっちには気がついていないようだった。

「えっと、ここに置けばいいと思うよ・・」
自信はなかったから信者さんをみながらだった。大きな燭台の横にだった。
さっきまではろうそくの明かりだけの聖堂だったけど、今は照明がつけられていた。
「これって、イエス様なの・・」
祭壇の手前に馬小屋の中に赤ちゃんのイエス様がマリア様に見守られながら横たわっている誕生の模様の模型だった。
「そう、生まれてきたときの再現かな。この赤ちゃんがイエス様だね」
「そっかぁ・・こんなのも初めて見た」
楽しそうに直美が覗き込んでいた。
「へー 私も初めてみたぁ」
「俺もぉ」
夏樹も大場も楽しそうだった。
イエス像が笑ってそれを見ているようだった。

「あんさーん 来てはりましたんかー」
大きな声の、妙な関西弁が後ろから聞こえてきていた。間違えようのないステファン神父の声だった。

作品名:恋の掟は冬の空 作家名:森脇劉生